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第10話_疑似異世界

会議室でラズベリが2つの指輪を渡してくる。

「はい、コレをどうぞ♪ 今度は1人で勝手に飛んじゃ、ダメですよ?」

「うむ、分かっている」

ラズベリから渡された、転移の指輪と追跡の指輪を身につけた後に、NHフィールド内や異世界で使える「メニュー」という基本スキルを発動させて、どの異世界のどの場所に移動するのかという座標設定をする。


「今回は『疑似異世界』の『基準点』に設定。グスターちゃんも、同じようにやってみてくれますか?」

「うむっ♪ 疑似異世界の――基準点に――設定っ♪」

「……(『疑似異世界』の『基準点』に設定)」


「それじゃ、異世界に移動しますよ? せーの♪」

ラズベリと釈迦頭先輩とグスターの声が、きれいに重なる。

「「「異世界転移!!」」」


 ◇


「全員、無事に到着しましたね♪」

「……(グスターさんも、ちゃんといる)」

「もちろんだ!」

前回のグスターは、座標設定をせずに転移の指輪を発動させて、指輪に記録されていたままの古い座標――わんわんが一杯いた異世界――に飛ばされてしまった。

でも今回は、ちゃんとラズベリの話を聞いて設定もバッチリしておいたから、無事にラズベリや釈迦頭先輩と一緒に異世界へ転移できた。


周囲を見渡せば、学校の部室とほとんど同じ内装の「神社の社務所の中」にいたけれど――窓の外は地平線まで続く草原だった。思わず駆け寄って外を見る。

本当に、絵に描いたみたいに青々とした草原が広がっていた。所々、木々が密集して、神社とかでよくある「鎮守の森」みたいになっている場所が目につく。


あ、森の入口に赤い鳥居を見つけた!

「ラズベリ、釈迦頭先輩、あそこ、鳥居があるぞ!」

「その反応、グスターちゃんは神社が好きなのですか?」

「ああ。神社巡りとか大好きだ。照国神社に荒田八幡、磯の天神様に霧島神宮、釜蓋神社なんかも外せないな♪」

「釜蓋神社、良いですよね。ヴィランちゃんと願い事の祈願に行ったことがあります♪」


「ヴィラン? 誰だ、それ?」

「……(ボクのことだよ。こっちの世界では、釈迦頭じゃなくてヴィランって呼んで欲しいんだ。異世界では、イラン・ヴィランって偽名を使っているから)」

イラン・ヴィラン? アロマオイルにそんなヤツがあった気がする。

でもまぁ、今は関係ないか。

「ふむ。了解だ、ヴィラン先輩」

「……(うん、よろしく♪)」


「さて、そういうことで疑似異世界にやって来ましたが――まずは、お外で魔法の適性試験から始めましょう。グスターちゃん、転移の指輪が魔力の発動体になっていますので、魔法の練習をしてみましょう」

「ああ、よろしく頼む」


社務所から出て、外に広がる草原へと足を進める。

「それでは、ここら辺で良いですかね」

300メートル程行ったところで、ラズベリ達が足を止めた。

「それでは、わたくしが魔法の実演をしますので見ていて下さい。ますば魔法の発動体である指輪に力を込めるようなイメージを作って――」

「ふむふむ♪」

「次に使いたいイメージの魔法を頭に思い浮かべて――」

「ふむふむ♪」

「魔法の詠唱をするのです。例えば――」


「空に輝く無数の星よ、その炎を身にまとい、グスターの呼びかけに応えて降ってこい! 爆撃目標は、あの鎮守の森だ♪ 星屑落下(スター・フォール)!! ――みたいな感じか(≡ω)?」


冗談半分で中二病っぽい詠唱を言ってみたのだが、ラズベリとヴィラン先輩の顔が驚愕に染まっていた。

「ん? どうしたんだ?」

「ぐ、ぐすたーちゃん!!」

ラズベリが口をパクパクしたまま、空を指さす。

ヴィラン先輩も空を指さしている。

「……(空っ!! 空を見て!!)」

2人に言われて空を見上げると――そこには信じられない光景が広がっていた。


快晴の青空に、光の亀裂が走っていた。

赤い流れ星、白い流れ星、青い流れ星、黄色い流れ星、そして緑色の流れ星。

幾何学模様にノイズを打ち込み、崩壊させたような非現実的な空。

交わり続ける光の線。

バラバラに切断され続ける空のパズルの向こう側から、衝撃波を伴う炎塊が降ってくる。


「ちょ、ちょっと何なんだ、これ!!」

グスターが叫んでいる間にも、ラズベリとヴィラン先輩が周囲に魔法で障壁を張ってくれた。幸い、隕石はグスター達のところには降ってこない。

でも逆に、遠く離れた鎮守の森に、怒涛の勢いで無数の隕石が降っている。

あ、ヤバい、赤い鳥居が吹き飛んだ……。中の神社は……うん、ここからじゃ、土煙がすごくて見えないや……otz


でも、ターゲット設定って大事だな。

軽い気持ちで目標設定したけれど、そうしなきゃ、辺り一面に隕石が降って、グスター達も巻き込まれていた可能性があったのだから。


 ◇


最後の1つの隕石が落ちて、轟音が途切れた後。

「グスターちゃん?」

ラズベリが、にこっとした作り笑顔(・・・・)でグスターの名前を呼ぶ。

「ごめんなさいっ!!」

怒られる前に謝ろう。全力土下座だ。

「ごめんなさいじゃ、済みません!! 幸い被害はあの神社だけで済みましたけれど、下手したら、今頃わたくし達は肉片ですよ!? 野生動物の餌ですよ!? 昨日、あれだけ人の話は最後まで聞きましょうと言ったのに、学習していないんですか!?」


「ぅうぅ……返す言葉もないデス」

「そもそも、こんなことを繰り返すのであれば、お兄さんの所にサルベージに行くのに同行させません。それでも良いのですか?」

「――!! 良く無いデス! 反省してイマス! 連れて行って下サイ!」

「口先だけなら、誰でも言えますよね?」

「……(まぁまぁ、ラズベリ。そこら辺で良いんじゃない?)」

「良く無いです」

「……(でも、グスターさんは、魔法の才能はあるよね。あんな短い適当な詠唱でコレだもん。きちんとした魔法理論を学んだら、どんなことが出来るのか、楽しみだよ?)」

「それはそうですが――」

悩むような表情を浮かべた後、ラズベリがグスターの方を向く。

「決めました。グスターちゃんには、異世界のルールをみっちりと叩き込んであげます♪ それはもう、無茶なことはしないように」

笑顔のラズベリ。――超怖い。


 ◇


そういうことで始まりました、異世界のルールとマナーの講座デス。

ハイ、脳内進行はグスターがお送りさせて頂きマス。

え? なんで説明口調なのかって? あはは……ラズベリの説明で脳がパンクしたからに決まっているじゃないですかぁ(Tω)ノシ

はぁ……頑張ろう。


ラズベリの教えてくれたルールを復習するために、ノートに書いた項目に目を走らせる。後でテストをするって言っていたから、ちゃんと暗記しないといけないのだ。

……生きているのが、つらい。


いわく、異世界では正当防衛以外の殺人は原則禁止。窃盗や強盗、強姦などの犯罪行為は明確に禁止。異世界の秩序を乱すような、過度の干渉も原則禁止。もしも破ったことが判明した場合、罪を犯した本人にも、その使用者責任を持つ各会社にも、ペナルティーがある。罰金刑から懲役、死刑まで。場合によっては、異世界の国へ犯罪者として引き渡して、異世界の法律で処罰されることもありうる。


いわく、異世界では基本的人権は尊重されていないと考えるべき。奴隷制や人身売買、人種や種族間の差別や抗争は当たり前だと考えておいた方が良い。個人的な感情や正義感をもとにした過度な干渉は謹むべし。


いわく、異世界の人間や魔物、その他の生き物をこっちの世界に連れてくるのは明確に禁止。違反した場合、前述した通常の罰則だけでなく、サルベージ免許の停止や取消しもありうるので注意するべし。


……うん、覚えた♪ 次のページへ行こう。


いわく、「帰還の指輪」は何があっても身体から外さないこと。帰還機能、追跡機能、ウイルスや病原菌などからの保護、各種ステータスアップ機能など、恩恵が多岐にわたる分、失ってしまうと日本への生還が難しくなる。なお、行方不明の場合の保険として携行が義務づけられている「追跡の指輪」も、同様である。


いわく、パワーレベリングは必須である。各社、各自、疑似異世界でプログラムモンスターと戦い、レベル上げ及び戦闘経験を積み上げるべし。異世界での死亡や傷害、その他事件に巻き込まれるなどの被害にあった場合でも、日本政府及びJWXAは一切補償しない。また、労災の対象にもならないので注意すべし。


いわく、桜島の「異世界特区」および、それを囲う「NHフィールド」外では、魔法やスキルの使用は厳禁とする。これには回復魔法も含まれる。(現状では、NHフィールド内でしか魔法やスキルは使えないと考えられているが、今後、NHフィールド外で使用可能になった場合も本規則は有効である)


いわく、異世界からサルベージしてきた物品および技術および魔法等は、その所有権および知的財産権等の一切の権利をJWXAが保持することとする。ただし、サルベージを行う本人やサポート要員が異世界およびNHフィールド内で物品や技術を使用する場合に限り、この規則は除外することとする。


よし、RPG系のマニュアルだと思えば、簡単だ♪

なんか楽しくなってきたし、早く覚えて次のステージに行こう!!

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