第0話_魔王軍壊滅
息を3秒吸って、2秒止めて、10秒吐く。
腹式呼吸で深呼吸をしながら、集中力を高めていく。
喪服代わりの闇色甲冑と漆黒のドレスで身を包み、目の前に広がる魔王軍を見据える。
グスター1人VS魔王軍3万5000。
山の向こうまで広がる、魔族と魔物の黒い群れ。
もっと緊張すると思っていたけれど、グスターの心は平穏だ。
明鏡止水、晴雲秋月、虚心平意――とまではいかないけれど、ピンと張りつめた空気の中にある魔素が、身体の中をめぐって細胞の1つ1つを活性化してくれているのが感じられる。
「さて、始めるか」
魔王軍の前衛との距離は、およそ50メートル。
さっきからグスターの張った魔法障壁に、魔王軍の攻撃魔法や矢が当たって、煩わしい音を立てている。
「空に輝く無数の星よ、その赤き、青き、白き、黄色き、緑き炎を身にまとい、グスターの呼びかけに応じよ! ――」
腰を落とし、大地を踏みしめ、力を溜めた後、柔らかく握った拳を放つ。
「――非殺傷・星屑狼拳!!」
グスターの拳から放射状に解放された、流れ星の肉球ぱんちが、魔王軍を蹂躙する。
ぺしぺしぺし☆彡
ぱしぱしぱし☆彡
しゃきーん、ざくっ★
「あ、やば、爪立てちゃった!!」
急いで爪を収納する。
……あ、動いている。良かった~、死んではいない。
ぺたぺたぺた☆彡
ぷにぷにぷに☆彡
もきゅ、もきゅ、もきゅ☆彡
びたん、びたん、びたん☆彡
もう誰も死なせない。敵も味方も死なせない。
そのためにグスターは強くなった。敵に手加減出来るくらいに、強くなった。
背後に降り立つ音。そして嗤うような声。
「少しは、腕をあげたみたいだね?」
振り向かなくても分かる。もう1人の自分だ。
「――っ!」
無音でグスターの首があった空間を通り過ぎた手刀。
やっぱりこいつは強い。
でも、負けるわけにはいかない!!
バックステップで距離を取った――瞬間、身体に衝撃。
視界が暗くなる。
◇
「ぅ、痛たたっ……」
目を開けると、グスターの部屋の床だった。
すぐ隣にベッドの脚が見えるから、どうやら、グスターはベッドから落ちたらしい。
「夢かぁ……って、あれ? グスターは、どんな夢を見てたんだっけな?」
30秒考えて、1つだけ思い出せた。
「なんか、一生懸命、猫ぱんちしてた?」
うん、ちょっと恥ずかしい。
こんな夢を見るなんて――昨日、佐藤さんちの猫(≡ω≡)と遊びすぎたせいかもしれない。あいつは、ツンデレだけれど、モフモフで可愛いんだ♪