電車の窓
酷く疲れた顔をした女が、窓ガラス越しに私を見返した。
まっすぐとこちらを見ているはずなのに全くかみ合わない視線はぼんやりと宙をさまよっている。
不鮮明なガラスを通してでさえ伝わるその女の顔色の悪さに知らず背筋が冷える。
パッとあった視線は、互いにすぐに逸らされた。
いつからそこに座っていたのか。まるで世に絶望するくたびれた老人のように身を縮めて座る女の姿は、
しいんと静まる閑散とした夜の電車の中で不吉な不気味さを醸し出している。
一瞬交わってしまった視線にどうしようもないいたたまれなさを感じた。
【ありがちな1シーン。夜の電車。】
一体彼女に何があったのか、20代前半のように見える彼女の表情はとても暗い。まるで疲れきった老婆のようだ。
見ているだけで運気が下がりそうな女。
ああ関わりたくない、ますます気分が沈むわ。
自分だって仕事帰りで十分疲れているのだ、これ以上気が滅入ることは勘弁して。そう心底思った私が、しかしよく見ると窓越しの彼女に大変見覚えがある。
触れると崩れてしまいそうな不安定な表情、気を抜いているようで周りに視線をやって警戒するピリピリした空気。ストレスの塊。
私は、彼女をよく知っている…
どこかできっと、いえいつも見ているような既視感がある。
ややあって私は思い出した。
なんてことはない。
窓ガラスに写り込む女の顔は、疲労と眠気に耐える自分の顔そのものだった。
ああ、私いま すごく疲れてるんだな。
「今日くらいゆっくり休もうか」
久しぶりに、素直にそう思った。




