〈第一章 朱色〉
思い返せば彼女はいつも朱色の髪飾りをしていた。ピンだったりヘアゴムだったりシュシュだったり。だから俺もプレゼントはいつも朱色のものにしていた。赤よりも少し明るくて、彼女によく似合っていたから。
「おい、孝介ー!」
初めて会ったのは高一の夏、クラスは三つ隣だった。
「あなたが孝介くん?」
中学の時からの友人が紹介してきて第一印象は「外ヅラのいいやつだな」だった。最初はこいつキャラつくってんのかとかおもっていた。俺の周りにいた女はギャーギャーうるさくて口の悪い女ばかりだったから。だが琴美はそんな女達と違う、と気づいたのは秋の放課後。部活帰りになんとなく下駄箱を通りかかったら告られてた。男に丁寧に、困ったように謝る姿を見て「ああ、こういう、雰囲気の柔らかい女なのか」と思い、男が去ったあとに声をかけてみた。
「なあ、川崎」
「は、はいいぃぃ!?」
余談だがこの時の琴美の反応をからうと、いつも彼女は顔を真っ赤にして拗ねる。
帰りながらいろんなことを知った。なんでも受け入れては断れない仕事のこととか、部活は美術部で大会が近くて緊張してるとか、人に甘えるのが苦手とか。
初めてのタイプの女。話す回数が増えるごとに距離が縮まるのがわかった。冬がきてバレンタインのチョコを催促し、慌てて作る彼女に頬が緩み、ホワイトデーは悩んだ挙句母さんとキッチンに立った。妹に茶化されて恥ずかしかったが俺は料理が好きなのだ。
そして春、クラス替えで俺らは同じクラスになり付き合い始めた。毎日がなんていうか、し、幸せだった。
「おい辻村ー。起きろよ」
意識が少しずつはっきりしてくる。なぜだろう周りの喧騒がどこか懐かしい。
「ん……」
「お、起きたか」
紺のカーディガンが目に入る。そうそう、こいつはいつも両手をカーディガンのポケットに入れていてーー。
「あ、安藤!」
勢い良く立ち上がる。立ち上がりすぎて膝を机の裏に打つ。
「ーーッ」
「あーお前の馬鹿さ加減がわかったよ。落ち着け、今は休み時間だ」
そう言われ周りを見渡せば見知った顔が次々と。高校を出てからは出てからは進学やら就職でみんな遠くへいってしまった。物理的な距離も、精神的な距離も遠く感じたものだ。
この安藤だけは三年間同じクラスで学科は違ったものの同じ大学へ進み、結婚式にも来てくれた。今は会社を立ち上げようとこの街で頑張っている。
「宿題やってきたか?お前頭は良いが変なとこ馬鹿だよな」
呆れたようにため息を吐く安藤。なあ、聞いてくれよ、俺さっきセーラー服の女の子にも同じようなこと言われたんだよ。なんて言えば嫌そうな顔を向けてくるだろう。
「安藤、美琴は?」
「美琴?お前いつから川崎のこと名前で呼ぶようになったんだよ」
そういいつつもだるそうに視線を後ろの方に向けた。
「ほら、工坂といるだろ、窓のとこに」
ーーああ、我が嫁のなんて可憐なこと。今はもうみることのできない制服姿。
「……なあ、お前ってたまに"我が嫁"とか言うよな。なに、詩人でも目指してんの?」
「……言葉漏れてた?」
言い切ると同時に鳴るチャイム。
俺らの視線に気づいた琴美が照れ笑いながら小さく手を振ってくる。それに俺も振り返した。