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向き合った過去の向こうに

作者: 桜田ちひろ

四年ぶりの再会だった。

 実家から大阪へ戻る電車で、君に会った。

 最初、僕に話しかけてきたのは、中野だった。だらしなく服を着たり、おしゃべりで剽軽なところは何も変わっていなかった。

 声を掛けられたので適当に相槌を打った。すると、ここ、と中野が四人掛けのボックス席の空いている部分を指差した。

 窓際に中野が座る。その横に僕。向かいには荷物を置いていて、その横にいたのが前田だった。

 中野は悪いやつではないのだが、空気を読んでくれない。おまえだった知ってるはずだ。僕と前田がどういう関係だったか。

 

 今日、成人式だった。大学に進学してもうすぐ二年。初めて帰郷した。中学や高校の友達にたくさん会えた。みんな、あの頃とは何かが違っていた。

 斜向かいに座る君も、あの頃と何か変わったのだろうか。

 中野は他愛もない話を続けた。中野は僕とも前田とも話すけれど、僕と前田が話すことはなかった。

 途中の大きな駅で中野が降りた。ここまで何も変わってないヤツを見たのは初めてだ。


 中野が降りてからずっと、君は外ばかり見ている。僕は君を見ると、少し手が震えてしまう。

 高校入学早々、君は僕の友達になった。今思うと、友達にさせられたと言った方がしっくりくる。当時なかなか友達ができなかった僕はそんなことにも気付かず、君と友達になれたことを純粋に嬉しいと思っていた。

 

 あれを買ってきて欲しい。これを持ってきて欲しい。

 

 友達なら、そんなことも言う、と思っていた。

 

 あれを買ってこい。これを持ってこい。

 

 次第に口調は要求から命令に変わり、君以外にも僕にそういうことを言ってくる人が増えた。

 そのうち誰かが、万引きしてこいと言った。

 嫌だと言って、僕は逃げた。

 次の日から、学校に行かなくなった。


 二年になる時、君は事件を起こして退学していた。

 僕は気の合う友達もできた。大学にも受かることができた。楽しい高校生活だった。


 随分あとになって知ったことだ。君は僕に万引きをしてこいと言ったヤツを殴ったのがきっかけで、最終的に退学してしまった。

 それは僕への罪滅ぼしのつもりだったのだろうか。僕にとってはもうどうでもいいことだけれど。

 

 駅に着いた。荷物を持って早々に立ち去ろうとする僕に、君は言った。

 ごめん、と。

 大柄の体に似合わない小さくか細い声だった。たぶん、喉の奥をきゅっと絞ってやっと

出てきた声なのだろう。

 僕は声を出した。その声は発車のベルと重なった。閉まりそうになるドアの間をくぐり抜けて、ホームに下りた。君は中からこっちを向いて、深々と頭を下げていた。

 君も、中野と同じ、変わらないヤツだったのだろうか。ずっと、僕に謝りたいと思っていたのだろうか。

 電車がホームから過ぎ去っても僕はその場に立ち尽くしていた。まぶたの裏にたまった、熱いものを感じながら。

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