名前決定
少女の住む人魚の国では、王位継承者は決められた年齢になると異国へ修行しなければならないらしい。それで選ばれたのが日本のこの町だったのだ。
少女があまりにしつこいため、いったん家に連れてきたら少女はそう説明してくれた。
「…でも信じらんねぇよ。だって見た目普通の人間じゃん」
「そうですね。…じゃあちょっと人間っぽくない事してみるですね」
少女はそう言って目を閉じ、なにかつぶやいた。
すると本棚に入っていた本が大きな音をたてて一斉に床に落ちた。
「!?なっ…!?」
「じゃあ戻すです」
少女がまた何かつぶやくと本はぴったりと本棚におさまった。
「これで信じてくれますですか?」
少女は振り向いて笑った。
「い…今の何…」
「今のは念力です。人間界にいる間は弱くなっちゃいますけど」
「………」
マジで…??
今、本棚には誰も触れていない。じゃあ本当にこいつがやったってのか…?
「すげぇな」
「ありがとうです」
そう言って笑った少女の顔が可愛くて陸は照れ隠しに
「っと…な、名前なんて言うの?」
と話題を変えた。
「名前…?」
「おう。名前あるだろ」
なんとなく少女の顔が見れなくてそっぽを向いたまま話す。
「名前はないので決めて下さいです」
「は?なんで名前ないの?」
少女は困ったように笑いながら、 「あるですけど、人間の喉じゃ発音出来ないんです。だからこっちで暮らす間の名前決めて下さいです」
と言った。
「俺が決めんのかよ」
「はい。お願いしますです」
んー…難しい…
「…じゃあ…お前人魚なんだろ?って事は海からきたんだよな。だからウミってどうかな。…やっぱ安易すぎだよな…。んー…」
提案したあとになんだか恥ずかしくなっていそいで否定する。
「…ウミでいいですよ。可愛いですし」
「え?」
少女の発言に陸は戸惑った。
「いや、さっきの嘘だって。適当に考えたやつだし」
「いいですよ。私海好きです。」
「…いいのか?」
「はい。名字は陸と同じ柏木がいいです」
こうして人魚のお姫様の名前が決定した。