パンプキン村の首なし銅像
カボチャが取れること以外、取り柄のないパンプキン村がありました。村人は三百人ほどの、のどかな村でありました。
そんな村で、大きな噂が広まっていました。村のある青年が、ファイアドラゴンを倒したというのです。とっても大きな、火を吐く竜です。つい五年前には、隣村を焼け野原にした、とっても悪いドラゴンでした。
「わが村の英雄を称え、銅像を作ろう!」
村長はノリノリでした。先代から村を継いでから三年目の若造でした。
ところが、その青年の親族は一人残らず村に居ないというのです。仕方がないので、村長は青年の知り合いを回り、皆のうろ覚えの特徴をまとめ、村にただ一人の鍛冶屋さんに銅像作りを頼みました。
青年が、帰ってくることになりました。鍛冶屋さんは寡黙ですが、仕事はとても早いのです。何とか英雄の出迎え前日に、銅像が完成しました。
日も暮れかかっていた頃。パンプキン村へ錦を飾りに来た青年を見て、しかし村長は酷く落胆しました。彼女の剣は、そっくりに作れました。彼女の盾も、そっくりに作れました。ただ一点のみ、間違えました。
(銅像を、男で作ってしまったぞ……)
灯台下暗しとは、正にこのことです。
村長の落胆にお構いなしの村人は、さっそく英雄を広場に連れ、像を覆うヴェールを取ってお披露目しようとしました。
「ヴェールはまだ取ってはならぬぞ!」
村長の怒号に、村人たちは不満です。
「別に今でも、いいだろう」
「いいや、取ってはならぬぞ!」
「村長殿、お気遣いありがとうございます。見るのは、明日でも良いでしょう」
英雄は、村長の駄々に優しく答えました。英雄様がそういうなら、とその場はお流れに。事情を知るのは鍛冶屋ただ一人、しかし寡黙なことが幸いでした。
深夜、村長は村の周りを散歩していました。日はあっという間に明けるでしょう。さあ、どうしましょうか。
不意に、松明の明かりのようなものが見えました。こんな夜更けに、誰でしょうか?
グオオッ!
村長は目を見開きました。赤いウロコ、大きなツバサ、鋭いキバ。ファイアドラゴンが居たのです。口からは、火を吹いていました。おでこの古傷が、その凶暴さをこれでもかと示しています。
村長は、全速力で逃げました。そして、自分の間違いを無かったことにする、名案も思い付きました。
村の広場まで逃げて来ると、銅像を盾にしました。
「ドラゴン、こっちに来るでないぞ」
ドラゴンは火を吹きました。村長は、笑みをこぼして銅像から離れます。ヴェールごと、銅像は炎に包まれました。
「とりゃ! ドラゴンめ!」
いつの間にか、剣を持った英雄様が居ました。若い女性なのに、とても勇敢でした。
騒ぎを聞きつけてか、少女と共に、村人もやって来て、皆は消火を始めました。
残念ながら、ドラゴンの強い火のせいで、銅像は頭の部分がすっかり溶けてしまいました。見るに堪えない姿だからと言い訳し、村長はもっと分厚いヴェールで銅像を覆いました。翌朝、広場に集まった残念がる村人に、村長は事情を話しました。
「そういう訳で、英雄様、本当にありがとうございました。銅像は、作り直しますので、また今度お見せ致します」
「ありがとうございます、村長殿」
英雄様は、安堵しているようでした。
「ソンチョーさんが、ドウゾーをもやしたんだよ!」
村人は、幼い少女の驚きの発言に耳を傾けました。
「よる、トイレにいこーと、そとにでたの。そしたらソンチョーさん、ドウゾーをタテにして、ファイアドラゴンにもやしてもらってた!」
村長は黙ったままなので、村人の動揺は膨れ上がるばかりです。
「村長、打ち明ければ分かってもらえるさ」
鍛冶屋さんでした。背中を押され、村長は全てを打ち明けました。
「……銅像を見られたくなくて燃やして、本当に申し訳なかった」
村人は怒り心頭です。しかし、もう一人、頭を下げる人が居ました。
「私も、皆に嘘をついていたんだ!」
英雄様でした。
「村に帰ってきたとき、本当はファイアドラゴンを倒してはいなかったんだ。ドラゴンの寝込みを襲ったが、逃げられてしまった。卑怯なことをしたのに逃げられ、つい見栄を張ってしまった。銅像に案内されたとき、申し訳なさでいっぱいだった!」
ざわつく村人の間を、少女は前に出ました。
「でもおねえちゃん、ドラゴンしっかりたおしてたよ! わたしも、おねえちゃんみたいなエイユーになりたい!」
英雄様の瞳から、涙がこぼれていました。
収穫祭の季節になりました。頭の無い銅像のヴェールは、とうに剥がされていました。
「よいしょ!」
村人が、銅像の頭として、ジャック・オー・ランタンを乗せました。英雄というより、悪役のようです。
「英雄様。これで本当に良いのですか? 言われたとおりに作りましたが」
「いいじゃありませんか。別に私は最初から、男の銅像でも良かったのですよ。村長殿や村人の皆さんが、私を想って銅像を作ってくれただけで、冒険者になって良かったです」
「ありがとうございます。これからも、秋になったら頭を作っていきますぞ」
「お願いします!」
英雄殿は、その一週間後村を去り、遂に戻ることはありませんでした。それでも、パンプキン村の首なし銅像には、あれから毎年秋になると、ジャック・オー・ランタンの頭が乗せられているそうです。
そうそう、中のロウソクの火が付いていない、単なるカボチャの、ジャック・オー・ランタンですよ。




