めぐり合わせ病院
Nolaの勉強会参加のために提出した800文字作品です
お題:運命、診察券、花火
藤咲あゆな先生に絶賛してもらえたのはいい思い出です……
古い診察券を拾ったのは、夏祭りの最後の花火が上がったときだ。みんなは夜空を見上げていたけれど、僕は足下をみていた。それだけの理由。
表面には『めぐり合わせ病院』と書かれていた。患者名はかすれて読めない。
『診療科:運命』
『診療日時:めぐり合わせの良い時』
裏面にはそう書いてある。きっと、子どもたちの間で流行っている遊びだろうと僕は思った。
なんとなく胸のポケットへ入れたのは、そんな病院があったら受診してみたいと心のどこかで思ったからだ。なので帰路についたとき、たどり着いたのが『めぐり合わせ病院』だったとしても、僕はそんなに驚かなかった。
「ご予約の方ですね。診察券を出してください」
受付の人が言う。
僕は自分の物でもないのに胸ポケットからそれを取り出す。すると診察券は真新しくなっていて、僕の名前が記されていた。
すぐに名を呼ばれ、疑うことなく診察室へ入った。
「どこが痛みますか」
問われて、僕は「去年の、夏祭り」と答えた。医師はカルテにそれを記す。
「治療法はいくつかあります。まずは、後悔の元を断つ。これが一番、後腐れがないです。それに、やり直し。これは、たられば言う気持ちがスッキリしますね。もうひとつは――」
医師は僕をまともに見て言った。
「お勧めはしませんが、記憶を消す、という手段もあります」
僕は迷わずに「最後のでお願いします」と言った。
起こった事実を、なかったことにしたいわけではない。もう一度、同じ思いをしたいわけでもない。
僕はただ、来年は花火を見上げられたらいいと思うんだ。
「いいんですね? では――同意書へサインを」
僕は、差し出されたペンを受け取り署名した。
病院から出たとき、僕はなにかを失ったと明確に理解する。
心臓のあたりを触れてみる。ポケットにはなにもない。
晴れやかな気分だった。
けれど少しだけ、泣きたかった。




