9話 ( ;・`д・´)なんだって!?(`・д´・(`・д´・; )
――静寂が、音を立てて割れた。
「冷蔵庫……だと?」
「さっきのと同じ魔道具?」
「いや、どっちが先だ!?」
「宰相閣下推薦……って、まさか……」
「盗作? いや逆か?」
ざわっ……ざわざわっ……!!
観客席は瞬時に沸騰し、学会会場が地鳴りのようなざわめきに包まれた。
ステージ袖で、ダリルの顔色が見る見るうちに蒼白になっていく。
(やめろ……なんであいつが発表できてるんだ……!
女で学会員じゃないお前が、ステージに立てるはずないだろエミリア!!)
怒りとも動揺ともつかぬ感情に押し負け、
ついにダリルは――禁止されているはずのステージに駆け上がってしまった。
「こんな発表、止めろ!!
エミリア!! 振られた腹いせの嫌がらせだ!!
あの女は嫌がらせでこんなことをしているんだ!!」
ヒステリックな叫びを、セドリックが軽く片手をあげて制した。
「盗んだかどうかは、ここにいる学会員たちが“実物を見て”判断すればよかろう?」
「い、いや……でも……!」
そのとき、メリィがまるで援軍のように叫ぶ。
「そんなの認めないわ!!
どっちが先かなんて証拠はないんだから!!
同じものが二つ並んだって、わかるわけないじゃない!!」
激しい声が会場へ波紋のように広がる。
だがその中心で、
エミリアだけが静かだった。
「先ほどダリルさんは言いましたよね。
『この冷蔵庫は凍らせず、低温で保存できるのが利点だ』と。
──その説明に、間違いありませんね?」
「そ、それがどうした!!」
「二つが同じように見える。確かに、一理あります」
エミリアは観客席をゆっくり見渡すと、
二つの冷蔵庫に手を添え、澄んだ声で告げた。
「では──皆さまに、“決定的な証拠”をお見せします」
軽く顎を引き、扉へ手をかける。
会場の空気が、張りつめた。
「三日前、協会長と学会員立会いのもと、
同じ条件の食材、同じ魔石をセットし、同じ場所に置きました。
記録は協会長の手元にあります」
協会長と学会員が頷く。
「では──開けます」
ぱちん。
扉が開いた瞬間、会場が揺れた。
「なっ!??」
「あっち、カチカチに凍ってるぞ!!」
「エミリア嬢の冷蔵庫だけ、凍ってない……!」
ざわっ……!! ざわざわざわ!!!
「こんなのイカサマよ!!
あんたが何か細工したんでしょう!? 卑怯者!!」
メリィが絶叫した。
エミリアは一歩も引かず、静かに答えた。
「私は何もしていません。
そもそも──ダリルさんの冷蔵庫は“凍らせず保存する機能”が、設計段階で存在していません」
「な、何を言って……!」
ダリルが反論しようとするがそこへ学会員が前へ出た。
「確認しました。
エミリア様の言う通り、ダリル氏の設計図には“その機能の魔法式が存在しません”。
形だけボタンがあるだけで、内部回路に接続されていないのです。」
「ど、どうして……!」
会場中の視線が、針のようにダリルに突き刺さる。
エミリアが淡々と、しかし確実に追撃した。
「答えは簡単。
彼が持ち出した私の設計図は──“試作段階”のものでした。
未完成であることも、問題のボタンがダミーであることも、彼は理解せず、
『完成品』だと勘違いして発表したのです」
ダリルの膝ががくりと落ちる。
「ち、違う!!違うんだ!!
俺は……俺は……!」
「違うのなら、どうして“存在しない機能”を説明できたのですか?
自分で作ったのではない証拠ですよ」
エミリアの冷たい視線に、ダリルは何も返せなかった。
その瞬間。
「答えは明白だ」
セドリックが前へ出る。
「ダリルはエミリア嬢から設計図──すなわち発明そのものを盗んだ」
……静寂。
誰も反論しない。
セドリックは視線を協会長に向け、鋭く切り込んだ。
「そしてこの問題は、彼一人ではない」
「ひっ……!」
「女性が学会員になれぬ制度が、
彼女を“元婚約者”に頼らざるを得ない状況を生んだ。
その構造こそが、この盗作を許したのだ」
会場が静まり返る。
誰もが、胸に突き刺さったのだ。
「ここに宣言する!」
セドリックが高らかに言い切った。
「今後、性別に関わらず、
才能ある者が等しく学会員となり、
等しく評価される制度と法律を整える!」
その瞬間。
「「おおおおおおおお!!!!!」」
割れんばかりの歓声が、学会を飲み込んだ。
その渦の中心で、エミリアは震える手を胸に当てながら──
静かに、誇らしく微笑んでいた。




