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8話 (ㆆ_ㆆ) え、なんで!?


 ブウロロロロロ。


 魔導車のエンジン音に、錬金術学会に集まる人々の視線が一斉に向けられる。

 錬金術協会の発表会――その入口で、ひときわ歓声が湧き上がった。


「おい、あれ最新型の魔導車じゃないか!」「かっこいい……!」

「テンツ商会のメリィ嬢ね?」「隣は“協会の新星”ダリルだ!」


 オープンカーから降り立つ二人には、羨望の眼差しが集まっていた。


 ――これよ。


 メリィは満足げに微笑む。

 “新星ペア”としての宣伝効果は抜群。

 ダリルの発明を商品化さえしていれば、商会の繁栄は約束されたようなものだ。


 急に親の羽振りが良くなった理由は正直よくわからなかったが――

 儲かっているみたいだからどうでもいい。


 二人は拍手の中、堂々と歩き出す。

 その時だった。


 ブロロロロロ――。


 さらに大きく、重厚なエンジン音。

 会場に、もう一台“格が違う”魔導車が滑り込んだ。


 その瞬間、空気が一変した。


「……え?」「なにあれ、桁が違う……?」


 最新型のはずのテンツ商会の車が、まるで安物に見えるほどの高級車。

 ざわり、とざわめきが走る。


 車体から降りてきたのは――


 エミリア。

 セレナ。

 そして――


 宰相セドリック。


(は……? なんでエミリアが!?)


 ダリルは顔を引きつらせた。


「エミリア!! なんでお前がここにいるんだ!!

 女だから学会員になれないはずだろ! 入場禁止のはずだ!」


 叫んだ瞬間――


 がしっ。


「なっ――!?」


 ダリルは衛兵に取り押さえられた。


「宰相閣下の推薦により、彼女は特別枠で出席されている。

 余計なことを言うな!」


 協会長が慌てて口を挟む。


 その言葉に、宰相閣下がゆっくりと目を細めた。


「……今、“女性は学会員になれない”と言っていた気がしたが?」


「め、滅相もございません!

 女性でも、成績さえ良ければ……な、なれますとも!」


 協会長は引きつる笑顔のまま、ダリルの手を踏みつけた。


「それならいい」


 宰相閣下は静かに歩き出す。

 後ろ姿を眺めながら、ダリルは唇を噛んだ。


***


(なんで……なんでこんなことに!)


 ダリルはイライラと観客席にいるエミリアの姿をにらみつける。


(宰相閣下と知り合いだなんて聞いてない!

 だが冷蔵庫は俺の発明として発表してしまえば勝ちだ。

 証拠なんてない。嘘だと言い張ればいい。

 女のくせに生意気に俺よりすごい発明してたことを悔やめばいいんだ)


「次――ダリル」


 名を呼ばれ、ダリルは立ち上がった。


「俺が発明した魔道具は――この冷蔵庫です!!」


 にんまりと笑い、ステージで胸を張った。


***


「おお、画期的だ」

「これがあれば食材の保存方法が一変するぞ!」

「内陸部への輸送も夢じゃない!」


 会場は興奮の渦に包まれた。


(ほら……! 私の見立てに間違いはなかった)


 メリィはちらりとエミリアを見やった。

 うつむいているその姿を見て、優越感が胸を満たす。


(宰相閣下を連れてきたって、発表できなきゃ意味ないわ。

 これでもう“格”の違いがわかったでしょう?)


 会場の熱気は完全にダリルへ向いている。


(今回の主役は彼ね。間違いない――)


 そう確信した、その時。


「そして今回、特別ゲストをお呼びしております!」


 司会者の声に、会場がざわりと揺れた。


「特別……?」「前代未聞だぞ?」


 メリィが眉をひそめる。


「宰相閣下の推薦により特別枠でエントリーされた――

 エミリアさんの発表です!!」


 一斉に視線が後方へ向く。


「今、エミリアって言った!?」

「男爵家令嬢のはずだよな?」

「宰相閣下が推薦?どういう関係だ?」


 ざわめきが波のように広がっていく。


(は……? なんでよ……!?

 あの芋臭い錬金術師が、どうして――!!)


 メリィの表情から血の気が引いた。


 そのざわめきの中、エミリアがゆっくりとステージへ歩み出る。


 観客は息を呑む。

 ダリルでさえ固まった。


 エミリアは胸元に指を添え、深く息を吸い――


 静かに、しかし澄んだ声で宣言した。


「……私の発明は――冷蔵庫です。」


 その言葉が落ちた瞬間、

 会場は、まるで音が消えたように静まり返った。



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