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7話  悪者に人権はありません( •̀ ω •́ )✧


「で、収音機ができたわけですけど……」


 ベルン様が細い目をしながら、収音機を持ってぼそっと言いました。


「なんで私たち、こんなことしてるんでしょうか?」


 今いるのは街外れの茂みの中。

 私も宰相閣下もベルン様も、木の陰に突っ伏して収音機を構えています。


「収音機を試すためです。でも、普通は他人の話を黙って聞いちゃだめです。

 でも試さないといけません。なら悪い奴で試します!

 だから姉をふったあの男達です!!」


 私はそう言って、ぎゅっと拳を握る。

 悪い奴に人権はありません。普通の人にはあります。だから盗み聞きはだめです。


「だからって、なんでこんなところまで……自分たちで試せばいいでしょうに……」


 ベルン様が半眼で言うと、


「いや、いいアイディアだ」


 宰相閣下が、地べたに這いつくばったまま決め顔で褒めてくれました。


「閣下まで……そんな姿で言われても全然かっこよくありませんからね?」


「お前は一言多い。

 テンツ商会が“どこまで知っているか”が重要だ。

 もし彼らまで把握しているのなら、ここで音波は拾えんはずだろう」


「ああ、なるほど。

 資金援助を受けて、詳しい仕組みも理解しないまま作らされてるだけ……という可能性がわかるわけですね。

 あれだけ弱小商家が急に羽振りがよくなったのですから、どこかから支援を受けているのは確実ですし」


 ベルン様が真面目な顔で言います。

 私も真顔でうなずきます。


難しいことは全然わからないけど、きっとそうなのでしょう。とりあえず知ってた風にして賢いふりをしておくにこしたことはありません。


 私は収音機の起動ボタンを押した。


***


『今度の錬金術協会の学会では、どんな魔道具を提出するつもりなの、ダーリン♡』


『箱の中を常に冷やして長期間保存できる“冷蔵庫”って魔道具だよ、ハニー』


『すごい!! 絶対売れるわ!』


『俺ならこんなの簡単さ。新時代の先を切り開く男だからな』


 …………。


「中二病ですね」


 ベルン様がぼそり。


「中二病だな」


 宰相閣下も落ち着いた声で頷きました。


「酷いです。あれは姉の発明品です。

 姉と別れたなら発表しちゃだめです!」


 私が怒ると、宰相閣下がこちらを向きました。


「どういうことだ?」


「よくわかりませんが、姉は学会に入れないので発表できなくて……

 婚約者だった浮気男が発表してたんです。

 でも婚約を解消したのなら使っちゃダメです。

 私、変なこと言ってますでしょうか……?」


 私は少し涙目になってしまいます。

 姉の発明品は姉が徹夜して一生懸命つくっているものです。

 その発明を盗むなんてありえません。


 すると宰相閣下は、


「いや、その通りだ。貴公は100%正しい」


 と、頭をぽんとしてくれました。


***


「彼が……冷蔵庫を学会で発表するつもりなのですか?」


 私の報告に、姉の顔が青ざめます。


「ああ、そのようだ」


「エミリア様、もしかして……今まで彼が学会で発表していたものは、全部あなたの発明なのでは?」


 ベルン様の問いに、姉は静かに頷いた。


 姉は女性なので学会には入れません。

 だからあの浮気男が代わりに発表していたのです。


 宰相閣下は深いため息をついた。


「それにしても……

 貴族の間に“盗聴器入りの家具”が普及しているのは、放置できん」


 厳しい声だった。


「どうします? 今すぐ回収させましょうか?」


 ベルン様の提案に、宰相閣下は眉をひそめた。


「いや。今大々的に動けば“トカゲのしっぽ切り”になる。

 商家はただ作って売っているだけで、詳細は知らされていないだろう。

 本当に危険なのは、その背後の“大元”。

 そこへ辿り着かねば意味がない」


 静かに考え込んだあと――


「……ゆさぶりをかけようではないか」


 宰相閣下がにやり、と笑っいました。

 完璧な“悪い顔”です。


「セレナ、それにエミリア嬢」


「はい!」「は、はい?」


「あの二人に――やり返したくはないかね?」


 それは完全に悪だくみをしている問です。


「もちろんです!

 姉を傷つけたのは許しません!やり返します!

 ……でも、一番大事なのは姉の気持ちです」


 私は姉を見ます。

 元は姉が好きだった相手です。

 私が勝手に決めてしまってはいけません。

 空気の読めない私でもそれくらいはわかります。


 視線が集まる中、姉は一度うつむき――


「……やり返したいです!!」


 顔を上げた。


 その目は、強く、揺らいでいません。


 いつもの姉です。


「それでは――」


 宰相閣下が静かに歩み寄り、


「反撃開始といこうではないか」


 と、姉に手を差し出した。


 その笑みは、不敵で――どこか楽しそうです。


「はい! お願いいたします!」


 姉はその手をしっかりと握り返した。



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