6話 (*-ω-)ウンウン♪<わかってない
「すごい……帝城に来るなんて、はじめて」
宰相閣下とベルン様の後ろを歩きながら、姉が小声でつぶやきました。
確かに美しいです。
うちのような小さな男爵家とは規模が違い、
床も天井も磨かれ、光が反射するほどぴかぴかです。
「すごいです。この広さなら馬の調教もできそうです!」
私が感想を言うと、
宰相閣下の肩がぴくっと震えました。
ベルン様もなぜか肩を震わせています。
……何か変なことをいったでしょうか?
「昨日の件だが、テンツ商会の商品を買いそろえておいた。
確かに、原価と価格が見合っていないようだ」
そう言って宰相閣下が扉を開く。
応接室には、テンツ商会のランプをはじめとした
さまざまな日用品魔道具がテーブルに整然と並べられていた。
私・父・姉が席につき、
父、姉、宰相閣下、ベルン様が難しい数字の話を始める。
原価がどうとか……利益率がどうとか……全然わかりません。
でも、これが解決したらお父様とお姉様が助かるはずです。
それだけは、わかります。
私はベルン様に入れてもらった紅茶を飲もうとした――その瞬間。
眼鏡が曇った。
眼鏡は便利ですがこういうところは不便です。
そっと外して拭いた、そのとき。
――視えました。
テンツ商会の商品から細く伸びる、一本の薄い紫色の魔力の線。
まっすぐ、遠くどこかへと続いている。
「……ダメです」
私は立ち上がった。
「この魔道具、だめです!」
この魔力……
“どこかに何かを伝えている魔力”。
盗聴か、盗撮か、情報転送系に特有の流れに似てます。
私は商品をがしっとつかみ、そのまま外へ走りました。
「どうした?」
「何か不具合でも?」
宰相閣下とベルン様の声が聞こえるが、今は答えていられます。
魔力の線の先を追うと、そこには――
人が大勢集まっているのが視えました。
式典みたいです。
「ああ、今は式典が開かれているが……それが何か?」
宰相閣下が言った、そのとき。
式典の音声拡声魔道具が作動した瞬間、
魔力の線がふっと消えた。
(拡声器の魔力が強すぎて、こっちの魔力が切れました)
「この魔道具――あの式典にいた“誰か”に
盗聴か盗撮をされている可能性があります!」
私が言うと、場にいた全員が息を呑むのでした。
***
「本当です、閣下。ありました。
盗聴機能のある魔道具が、しこまれていました」
ベルン様が小型の魔道具を持って戻ってきます。
テンツ商会の商品からの魔力の漏れはもう消えています。
式典が終わり、関係者が散ったからかもしれません。
「ベルン。式典参加者の名簿は確保しているな?」
「はい。帰りに全員署名させましたので、
偽名でも筆跡鑑定が可能です」
「おそらく、この盗聴魔道具はそんなに広範囲は拾えません。
近くに行って作動させないと反応しないタイプです」
姉が魔力の流れを聞き取りながら言う。
「こんな小型で……これほどの性能を?」
父が感心するが、
宰相閣下とベルン様の表情は険しい。
「これは大問題ですね」
「ああ。テンツ商会が貴族を狙い撃ちして商品を売っていた理由はこれだ。
彼らの狙いは“貴族の情報”。
商品の売り上げなど、むしろ赤字でも構わなかったのだ」
宰相閣下の声はいつになく硬い。
「エミリア様、この魔道具の解析はできますか?」
ベルン様が問う。
「はい。小型なぶん、そこまで複雑な機能は入れられません。
“収音機”さえあれば、すぐ復元できます」
「なるほど。では制作を頼もう」
宰相閣下は窓の外に視線をやった。
その目が、ある人物を静かに射抜く。
私もつられて視線を追うと――
新聞で見たことがある人物。
第二皇子が、紫のオーラをまといながら立っていました。




