4話 面白いお嬢さん?
「お父様! お姉さま! お金、持ってきました!」
私は金貨がぎっしり詰まったバッグを抱えて家へ戻りました。
玄関で出迎えた父と姉は、目を丸くします。
「すごい……」
「セレナ、このお金……どうしたの?」
父と姉が問いかける隣で、
「懸賞金だ」
と、ついてきてくれた宰相閣下が落ち着いた声で説明してくれます。
「さ、宰相閣下!?」
父がぎょっと目をむく。
***
「じゃ、じゃあ、今日開かれたパーティーに……セレナ一人で?」
その後、応接室に移動し、向かいに父と姉。
私の隣に宰相閣下、その後ろにベルン様が控えています。
「確かに我が家にも招待状は届いていましたが……本当に出席を?」
姉が私と宰相閣下を交互に見て尋ねました。
「はい。明日の新聞には怪盗が逮捕されたと載るでしょう。
ただ、セレナ様が騒がれたくないとのことで、誰が解決したかは伏せるつもりですが」
ベルン様が淡々と説明してくれます。
「偉いわセレナ!! すごい!
一人であんな人の多い場所に参加したなんて!」
姉は感動して涙ぐみ、
「よく頑張った」
父も目を赤くしながら私を抱きしめてくれました。
「はい! 私、頑張りました!
これで家の借金、返せますか!? 魔道具は続けられますか?」
「……」「……」
私がほくほく顔で言うと、二人の表情が曇りました。
「……少なかったですか?」
バッグいっぱいだったので、私はすっかり足りたと思っていました。
「いや、すごい金額だよ、セレナ。一年分の補填としては十分すぎる」
父はそう言ったあと、苦い顔になります。
「でもね、それだけでは続けられないの」
姉が静かに首を振ります。
「今年一年は持ちこたえられる。でも来年も同じ赤字だ。
今後の領地経営を考えると、力のある商会に経営権を売るしかない」
「……そんな……やっぱり駄目ですか?」
「ううん。本当に、セレナは偉いよ。
怖かったのに、勇気を出して頑張ってくれたんでしょう?」
姉が肩をぽんと叩いてくれました。
「こわかったです……でも頑張っても駄目なら、意味がありません……」
私がしゅんと肩を落とすと――
隣の宰相閣下が「ごほん」と咳払いをしました。
「そうです! 忘れてました!
結婚してください!!」
約束はまだ無効になっていないはずです。
宰相と結婚すれば家を援助してもらえます!
「「!?」」
「ちょ、何言ってるのセレナ!?」
「そうだぞ。うちと公爵家では釣り合わん」
父と姉が同時に慌て出す。
「そうなのですか?」
私が首を傾げると、宰相閣下とベルン様が視線を交わし、
「とにかく資料を見せていただけますか?」
ベルン様が落ち着いた声で言いました。
「結婚の件はいったん置いておこう。
まず現状を整理しようではないか。
補填はできたし、設備も領民も、まだ壊滅というほどではあるまい」
宰相閣下が帳簿に目を通しながら口を開く。
「価格が太刀打ちできません。テンツ商会の値段に対抗するなら、
どうしても素材の質を落とさなければならない……
そんなことをすれば、あちらの商品に勝てず、貴族相手には売れません」
父が価格表と原価を差し出しました。
「テンツ商会……最近急に勢いを増していると聞きますね」
「薄利多売で競合を潰し、独占した後に価格を上げるつもりでしょう。
今は未来への投資で赤字覚悟の販売をしているのだ」
ベルン様の言葉に、宰相閣下も頷く。
「それはまずいですね」
「ああ。一領地の問題ではない。国として取り組む案件だ。
ここまで赤字を出してもなお売れる……一商会の力では不可能だ」
宰相閣下は資料を閉じました。
「何故、国の危機なのですか?」
「もしランプなどの日用品が一社に独占されれば、
将来、そこ以外では作れなくなる。
供給を止められれば品薄になり、価格が高騰する」
「それだけではありません」
ベルン様が続けた。
「独占した企業が他国の企業だった場合――外交カードとして使われる」
「なるほど!」
「趣向品ならまだしも、日用品は国の生活基盤です。
一商会が独占するのは好ましくありません。我々も調べましょう」
「その通りだ。権利の売却は保留にしてほしい。
我々で援助する方向で話を進める」
父と姉の顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
「このご恩は一生忘れません!」
「今日は遅い。後日、貴殿らを専門家として事務所に招こう。
テンツ商会の品と、君たちの魔道具を比較したい」
そう言って、宰相閣下は席を立ちました。
***
「面白いお嬢さんでしたね」
馬車の中。
ベルンの言葉に、宰相セドリックは「ああ」と静かに頷いた。
事の起こりは数日前――
「新興宗教?」
第一皇子の執務室で、セドリックは紅茶を飲む手を止めた。
「ああ。どうも第二皇子が、その宗教にのめり込んでいる節があってね」
窓辺にいた皇子が振り返り言う。
「……確かに問題だ。だが、それを何故自分に?
本来なら神聖部の管轄だろう」
「それがね、問題が“何もない”から困ってるんだ。
普通なら少し調べればボロが出るはずなのに、何も出てこない。
まっさらなんだ。逆に怪しいとは思わないかい?」
「……なるほど。確かに放ってはおけないな」
セドリックが言うと、皇子がうなずく。
「それで、君に教祖を見てもらいたいんだ」
「わかった。参加してみよう」
本来はその教祖を調査するために舞踏会へ潜入したのだが……
泥棒騒動で話は別方向へ行ってしまった。
とはいえ、教祖の“顔を確認する”という当初の目的は達成された。
それに――
「予定外だったが、悪くはなかった」
セドリックはセレナの姿を思い出し、柔らかく目を細める。
「そうですね。……東部戦争以来でしょうか。閣下のあんな笑顔」
「……」
「……ああ。そうかもしれないな」
セドリックはどこか楽しげに、馬車の外を眺めるのだった。




