3話 (‵□′)<婚約破棄だ!!! (´・ω・`)<……
「ごめんなさい……本当にごめんなさい、セレナ」
そう言って姉は、あの日から毎日のように泣いていました。
「本当に……ふがいない父で申し訳ない」
父もまた嘆きながら、夜な夜なお酒をあおっています。
以前はほとんど飲まない人だったのに。
どうして、こんなことになってしまったのか。
私は記憶をたどります。
***
「エミリア! 婚約を破棄する!!」
私の誕生日パーティーで、姉の婚約者が突然大声で叫んびました。
「な、何を言っているのダリル!
こんな場所で……今日は大事な妹の誕生日だと伝えていたでしょう?」
姉が慌てて私のほうを見ます。
私は最近まで引きこもりで、ずっと部屋から出られませんでした。
やっと外に出られるようになって、
姉と父が“人に慣れる練習”として、
小規模だけど誕生日パーティーを開いてくれたのです。
二人が今日のために細心の注意を払って準備してくれたことは、私もよく知っています。
「悪いなエミリア。俺はもっと“上”にいける男なんだ」
「……上?」
姉の元婚約者の言葉に姉が眉をひそめたその瞬間。
ぷっ、ぷーっ!
外から妙な音が響いてきました。
みんなが窓の外へ目を向けると、ざわっ、とどよめきが起きます。
「おい、あれ……馬のいらない馬車じゃないか?」
「確か、世界に数台しかない“車”ってやつだよな?」
私も慌てて窓の外を見ました。
オープン馬車の荷台に車輪とハンドルがついた乗り物――
最近開発された最新型魔導車に、
ぴかぴかのドレスを着た女性が乗ってます。
女性は手を振っていて、姉の婚約者も嬉しそうに手を振り返していました。
「迎えに来たわよ、マイダーリン」
「ああ、いま行く。じゃあそういうわけだから……
俺はこんな、古臭いランプなんかの日用品雑貨を作っているような
時代遅れの魔道具作りなんて、もうやってられない。
俺が目指すのはもっと“未来”だ。
君との婚約はなかったことにしてほしい」
そう言い放ち、姉の方を見てにやりと笑い、
高笑いしながら魔導車へ乗り込んで去っていきました。
――それが一年前の出来事です。
***
そして、その日を境に我が家の没落が始まりました。
「ごめんね……せっかくセレナが外に出てきてくれたのに……
こんなことになってしまって……」
姉は“私の引きこもりリハビリを台無しにしたこと”と
“婚約破棄”のショックで、すっかり気落ちし、鬱のようになってしまいました。
「旦那様、今日も経営状態が芳しくありません」
執事の報告に、父は頭を抱えることが多くなってしまいました。
我が家はもともと、
“精巧で壊れにくい日用品魔道具”を作って販売し、
小さな領地ながら安定した収入を得ていました。
しかし、姉の元婚約者と婚約した成金令嬢の商家が、
我が家の製品には劣るものの、
一見では見分けがつかないレベルの商品を“激安価格”で売り始めてしまったのです。
利益の出ない価格で薄利多売され、
我が家は一年で一気に追い詰められていきました。
私は昔から――魔力の痕跡が視える能力を持っています。
普通の人には魔力は見えないといいます。
そのため外へ出ると、魔道具や人の魔力が色とりどりに飛び交い、
それが怖くて外へ出られず、ずっと引きこもっていました。
でも、錬金術師の姉が“魔力が視えなくなる眼鏡”を開発してくれて、
ようやく外へ出られるようになったのです。
私はずっと父と姉に大切に育てられました。
家では極力魔道具を使わずに生活し、
快適に過ごせるようにと細心の気遣いをしてく、
いつも「あなたは悪くない」と慰めてくれていました。
――その父と姉が、危機です。
今度は私が恩返しをしなければ。
まず必要なのは、お金です。
私は新聞を握りしめました。
そこには“貴族の家から宝石を盗む怪盗を捕まえた者に賞金が出る”と書かれています。
そして今――
私は犯人を捕まえることに成功しました。
***
謝礼金を袋いっぱいに詰め込んでもらい、
私は金貨をほくほく顔でのぞき込みます。
これだけあれば、父も姉も喜んでくれるでしょうか?
……うん、なんだか足りる気がします。
「よかったですね、セレナ様」
ベルン様が微笑んでくれました。
「はい。よかったです。これで家の経営危機が救えるかもしれません」
「……経営危機?」
宰相閣下が聞き返す。
「はい。執事がそう言っていました。
だから私にはお金が必要だったんです。
でも、これだけあれば足りるかもしれません」
私が思ったことを答えると、宰相閣下はふむ、と頷き、
「ところで結婚の件だが……」
と切り出してきました。
そういえば……そんな約束をしていた気がします。
宰相閣下と結婚すれば、実家に援助してもらえると思って申し出でした。
「あ、その話は保留にしてください」
「……保留?」
「はい。これだけあればお金が足りますから、
宰相閣下と結婚する必要は、ないかもしれません」
私が真顔で言うと――
宰相閣下の肩がぴくりと震え……
次の瞬間、大笑いし始めました。
ベルン様を見ると、真っ白になって固まっています。
――私、何か変なことを言ってしまいましたでしょうか?
笑い転げる宰相閣下を見つめながら、
私は首を傾げるのだった。




