16話 おめでとう( •̀ ω •́ )✧
「紫の魔力が視えるだって?」
誰かがつぶやいたその途端、会場の空気が――変わりました。
「紫……魔族の色……?」
「悪魔よ! あれは悪魔の証なんだ!」
「紫の魔力が視えるのは悪魔だって、私は聞いたわ」
「気持ち悪い」
さっきまで拍手や感謝で満ちていたパーティー会場から沸き起こる憎悪の声。
私を責め立てる声が会場を埋め尽くしていきます。
「まさか……守ってくれたと見せかけて、悪魔だったのか?」
「魔力が見える? 本当なのか? 本当は魔族の力なんじゃ?」
リーデン伯爵さえも、私に疑いの目を向けます。
姉。
ベルン様。
そして、閣下。
私たちを取り囲むように、怒号が飛び交います
胸の奥が、ぎゅっと痛む。
――ああ。この感じ、知ってる。
小さいころ。
「光がきれい」と口にしただけで嘘つき扱いされ、
大人たちに冷たい目で見られたあの時と同じ。
怒号と嫌疑がホールを満たし、足元がぐらっと揺れた時――
宰相閣下が私を抱き上げた。
そしてホール全体を見渡して
「これはまた滑稽だ。
魔力が視える? それが、なぜ“悪魔の証拠”になるのかな?」
私をまるで守るかのように抱き上げながら。
まるで会場全体に喧嘩をうるように挑発的な笑みを浮かべるのでした。
***
「紫の魔力が視えるのは悪魔だ!!!」
数秒の沈黙の後貴族がセドリックに反論するかのように大声で叫んだ。
それをかわきりに
「悪魔は殺せ!! 放っておけば国が滅ぶ!!」
「そうよ騙されちゃだめよ!!!」
再び会場の空気が逆転する。
その様子に、
(魔道具の思惑誘導は完璧だ)
あの程度の反論で会場の空気が変えられるわけがない。
教祖は静かにほくそ笑んでいた。
会場にいる貴族たちには紫の魔力が「悪」の象徴だと刷り込んでいる。
宰相がどれほど正しいことを言おうと、民衆は拒絶するだろう。
紫の魔力――それは教祖の国が開発した“魔道具”特有の光だ。
それを視認できる存在が現れるのは都合が悪い。
だから前もって“紫の魔力が視える者は悪魔”というレッテルを流布させておいた。
(我々の計画の邪魔になる魔力を視える少女を殺し、宰相もこの場で抹殺する。
その混乱の中、私は姿を消せばいい)
貴族たちの瞳は、精神を惑わせる香を放つ魔道具のせいでどす黒く濁り始めていた。彼らは自分の信じたものだけを妄信的に信じ、攻撃性が増している。
(もう誰も止めることは出来ない)
教祖がにやりと内心で笑ったその瞬間。
ばさりっ!!!!
まるで静かにしろといわんばかりに宰相がマントを翻してセレナを抱きながら歩きだした。
「なるほど。なるほど。君たちは紫の魔力が視える者は悪魔……そう言いたいわけか」
すれ違うもの一人一人にわざと視線をあわせるように宰相が歩みだす。
そしてホールで貴族たちが一望できるところに立つと、
「君達の理論が正しいのなら私も悪魔、ということになる。さて、君達は私をさばくといいうのかね?」
と、鋭い眼光で会場にいるものを嘲笑した。
「…………え?」
威圧的に睨まれ、一瞬会場が委縮する。
……が
「宰相? 宰相も視えるのか!?」
「嘘だ!! 誤魔化すな!!」
「悪魔の手先なんだから嘘をついているに決まってる!」
と、再びざわめきだし。
「悪魔は倒さないと、皇子は正しかった」
皇子が連れてきて、会場に残っていた兵士たちまで剣を抜き、ざわつき始める。
すでに魔道具の力はその場の者の憎悪を最大限にまで掻き立てていた。
それでも、セドリックは余裕で笑う。
「君たちは覚えているだろうか?
私は“能力ある女性”としか結婚しない、それ以外の女性は眼中にないと宣言したことを」
「だからなんだ!!悪魔と悪魔の使いめ!!」
「それが何の関係があるのよ!?」
「何の関係がある? 愚門だな。いま、この場でその言葉の真意を証明してみせようではないか」
言ったとたん。宰相がセレナを抱えた反対の手を会場全体に何かをかけるようにふりかざすと――会場に、セドリックの周りに光が舞う。
「な!?」
「これは!?」
驚きに包まれる会場の中 宰相がにやりと笑った。
「それでは皆に披露しよう。私の「ギフト」を」
セドリックのよく響く声とともに――
「ギフト……!?」
「宰相が……?」
「まさか神子なのか!?」
会場が驚きに包まれ。
「私のギフトは――
《祝福の共有》。君らにわが婚約者の素晴らしき能力を共有させてあげようではないか」
セドリックの勝ち誇った声が会場全体に響き
――光が“爆ぜた”。
ぱああああああああああああああああああ!!!
まるで無数の星をばらまいたような光粒が、
ホール全体に一気に広がる。
天井から、床から、壁から、
波のように魔力の光が“見える”ようになる。
会場に飛び交う光の線や波。
普段魔力を認識できないはずの貴族たちの目の前に色の世界が広がる。
幻想的な光の光景が。
「な……に……これ……」
一人が驚愕の声を上げたとたん。
「ま、魔力が……見える……?」
「私にも……?」
「すごい何これ?」
会場も歓喜とも驚愕とも取れる声がわきはじめた。
その中で、教祖だけが青ざめていた。
(……バカな。
ギフトで、魔力認知を“全員に”共有した……!?
こんな能力、聞いたことが――)
宰相は光に照らされながら、静かに言った。
「さて、君たちの主張は紫の魔力が視えるのは悪魔だったかな?」
宰相の言葉に皆、一瞬我にかえる。
そう――会場の彼らにも紫の光が視認できるのだ。
おそるおそる視線が、宰相に集まり――その視線を待っていたかのように宰相はにまぁっと笑い。
「おめでとう。これで君たちは立派に、悪魔の仲間入りだ」
と、嬉しそうに宣言するのだった。




