14話 ((((;゜Д゜))))何事!?
「な、何事ですか!?」
突然兵士に囲まれ、夫が悲鳴のような声をあげた。
エルマーも驚いて、思わず私のドレスの裾をぎゅっと掴んでくる。
(ごめんなさい……でも、あなたのためなの)
私はそっと息子の背を撫でながら、第二皇子が指差している少女たちを見た。
――我が家が“呪われている”と吹き込み、
自分たちで怪異を起こす仕掛けを置き、
夫と息子を欺いた、憎むべき少女たち。
これは“作戦”だ。
教祖さまの言う通りにすれば、悪魔は排除できる。
第二皇子が『皇族権限』で捕らえてしまえば――
男爵家程度では抗議などできない。
伯爵である夫が止めようとするなら、私が全力で阻止するだけ。
(捕まえさえすれば、あとは教祖様が何とかしてくれる)
夫を騙し、息子を惑わせた憎い少女――
「この少女たちは魔道具を用いて倉庫を爆破した!
ハルシュタイン商会の利益のために、競合の商品に盗聴器を仕掛け、
その罪を隠すためだ!!」
第二皇子の声が響く。
兵士が少女たちを捕らえようとし――私がほくそ笑んだその瞬間。
ばんっっっ!!!
扉が開く。
視線が集まる。
そして――
「わが愛しのレディに対する狼藉は、その辺でやめてもらおうか?」
一瞬だけ訪れた静寂を打ち破るように堂々と現れたのは――宰相セドリック・ヴァルハイトだった。
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「何を言っている!? この子は倉庫爆破犯だぞ!!」
セドリックに抗議するかのように第二皇子が叫ぶ。
兵がセレナへ手を伸ばそうとした瞬間、
セドリックとベルンがすっと前に出た。
「ほう。では、その証拠を提示していただきたい」
「そ、それは言えない!あなたはこの少女と懇意なのだ!
皇族特権の逮捕権はいくら宰相でも覆せぬはず!!」
第二皇子は追い詰められた獣のように叫んだ。
皇族特権の逮捕を拒めるのは本人の身分のみ。
セドリックは静かに片眉を上げた。
「ええ、皇族特権――帝国法に確かに記されている。
だが、皇子。あなたもご存じのはずだ。
“公爵家には適用されない”と」
「な……貴様に言っているのではない!! この少女――」
第二皇子は途中で言葉を飲み込んだ。
そう、セレナは“未婚の女性”。
公爵家との繋がりは、今のところ――ない。
(まさか……だから法務省に入り浸って……)
「察しがよくて助かるよ」
セドリックは微笑み、セレナの手を取って宣言した。
「我、セドリック・ヴァルハイトは――
セレナ・ハルシュタインとの婚約をここに発表する。
よって、わが婚約者に手を出すことは絶対に容認できん」
そして軽々とセレナを抱き上げてにぃっと笑う。
「はいっ! 私は宰相閣下と婚約しました!
逮捕されるいわれはありません!
これが世にいうマイ・ダーリンです!!」
セレナが得意げにぎゅっと抱きつくと、
――ざわっ!!!
会場中が騒然となりどよめきが広がる。
「そ、そんなものが……許されると思っているのか!!
そいつは悪魔だ!!」
第二皇子が必死に叫ぶが、兵士たちの表情には迷いが生まれていた。
「悪魔? 彼女のどこをもって悪魔呼ばわりしているのか」
「その女の家の商品だ!
それを使ってから私は頭痛がひどい!
調べたら“睡眠妨害の魔道具”が仕込まれていた!!」
「では尋ねよう。
それは“いつ”仕込まれた?
購入時か、後からか――調査はしたのか?」
第二皇子は一瞬で蒼ざめ、目をそらした。
「い、いや……だがハルシュタインの商品から……!」
「後付けは容易だ。
それ以上に問題なのは、“なぜ非公式の形で皇族法を用いた”かだ」
セドリックの言葉が突き刺さる。
誰が聞いても皇子側が不自然だった。
セドリックはセレナのおでこに軽くキスすると、
兵士たちへ静かに告げた。
「さて、問おう。
皇族法を乱用した皇子と、法を遵守する公爵家。
君たちはどちらが正当だと思う?」
兵士たちは互いに目を見交わした。
皇子側の兵士たちからみてもこの逮捕には無理があるのだ。
「も、申し訳ありません! セドリック閣下が正当です!!」
一斉にひざまずいた。
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ざわざわざわ。
セドリック様と手を繋いだまま、
私は連行されていく第二皇子を見送りました。
「違う!! 皇子は正しい!!
あの女は悪魔だ!! 皇子は悪魔を排除しようとしただけ!!
彼女は――悪魔なのよ!!」
リーデン伯爵夫人が叫びます。
場の視線が一斉に夫人へ向きました。
「そうよね、エルマー!!」
「えっ……?」
困惑したようにエルマー君が私と夫人を見比べます。
答えられるわけがありません。
私は悪魔でもなんでもありません。
でも母親を裏切りたくないというエルマー君の気持ちもわかります。
「今ここで証言させましょう!
なぜあの女が悪魔なのか、いまここで!」
夫人が懐から何かを取り出そうとしました。
その瞬間――
“紫の光”が、夫人の眉間へ一直線に走るのが視えました。
教祖が杖を掲げ、その先端に濃い魔力の塊。
それと夫人の眉間を繋ぐ“紫の糸”が一直線に。
もしかしてあの魔力の塊をあてるつもりかもしれません。
そのすぐ隣には、エルマー君がいます。
考えるより先に、エルマー君を守りたい一心で体が動いていました。
私は全力で夫人にタックルをかけ――
ぱしんっ!!!
私が夫人を押し倒し――夫人の手にあった“何か”が、弾け飛びました。




