11話 大丈夫(`・ω・´)☆
「それで、私に調べてほしいというわけですか?」
魔道車の中で、私はベルン様に尋ねました。
対面にはベルン様と、識別誤認の魔法で姿を変えた宰相閣下が座っています。
「はい。我々も調べましたが、怪異が起きているのは“その宗教に心酔している貴族”の屋敷だけ。他の貴族邸ではまったく発生していません」
「怪異とは具体的にどんな形でしょう?」
姉が問う。
「家具がカタカタ揺れる程度です。本当に微弱ですが……何度も続けば精神的負担は大きい」
ベルン様が説明してくれました。
「エミリア様。盗聴器だけで、そのような怪異は起こせますか?」
「聞いたことはありません。ただ、盗聴器は常に魔力を放出しています。もし大量の盗聴器が一か所に集められているのなら、無関係とは言い切れません」
「なるほど! それで私の番なのですね!」
私は嬉しくて、勢いよく身を乗り出します。役に立てるのは純粋に嬉しいです。
「はい。今向かっている貴族である伯爵は私の友人でもあります。頼めますか?」
「はい! がんばります!」
胸を張って答えました。
***
「ベルンから聞いております。あなたが宝石泥棒を捕まえた神子様ですね」
屋敷に着くと、人の良さそうな男性──リーデン伯爵が丁寧に挨拶してきました。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、心強いです」
「怪異は屋敷の二階だけなのですよね?」
ベルン様が確認すると、伯爵はうなずく。
「はい。案内いたします。そ──」
そこでリーデン伯爵が急に私の横を見ました。
私もつられて視線を落とすと、小さな男の子がいつの間にか横に立っています。
「お姉ちゃん、この家の“こわいこと”防いでくれるの?」
リーデン伯爵にそっくりな目をした少年──エルマー君が、不安げに見上げてきます。
(ち、ちいさい子……苦手です……!)
(でもこういう時は……たしか励ませばいいんですよね……!)
「防げるかはまだ分かりません。でも──全力は尽くします!」
決め顔で言ったら、エルマー君はほっと息をついた。
ちょっとうれしそうにはにかみながら「ありがとうお姉ちゃん」と笑ってくれました。
なんとか小さい子を安心させる大作戦は成功したようです。
よかったです。
私は胸をなでおろすのでした。
***
「怪異はランダムに発生します。特に妻が二階にいる時が多く……そのせいで、すっかりノイローゼ気味でして」
案内されたのは、伯爵夫人の部屋でした。
椅子に座るその姿は、げっそりと疲れ切っているように見えます。
「どうか……よろしくお願いいたします……」
「はい。調べてみます」
私は眼鏡を外し、魔力の流れを探る。
「何かわかりましたか?」
隣にいたベルン様が問います。
「確かに倉庫から微弱な魔力が飛んでいます……が、この揺れを起こすほど強くはありません」
そう答えた瞬間──
倉庫方向から流れる“ふよふよした魔力”が、
急に一直線へと変化した。
(……え?)
その直後。
カタッ……カタカタッ……カタカタカタカタ!!
部屋の花瓶、棚、絵画──すべてが震えだした。
「またですわ!! どうか助けてください!
真理の灯教会のお札も効果がなくて……!
わたくし、何か悪いことでもしたのでしょうか……!」
伯爵夫人は半泣きで訴え、
伯爵は慣れたように肩を落とします。
姉はベルン様の後ろに隠れて震えています。
その中で、私は──魔力の流れを追い、確信した。
「犯人がわかりました」
「え!?」
部屋の片隅にある“女性の銅像”。
それが、倉庫へ向けて濃い魔力を放っている。
「この銅像から魔力が倉庫へ飛んでいます。
倉庫からの魔力が逆方向にぶつかり──ここで弾けて、揺れを起こしているんです」
「なるほど! 魔力の共振動ですね」
姉がベルン様の後ろから声をあげました。
「共振動?」
「同質の魔力がぶつかり合うと、周囲に振動を起こす現象です。
奇跡的な条件が揃うと起こるんです」
説明を聞きつつ、私は銅像へ近づいた。
(きっと盗聴器が……)
そう思った瞬間──
銅像の魔力が「収縮」した。
(……え? この魔力、前にも見た……これ──)
爆発するやつです。大体こういうのはこの後ドカンといきます。
しかも、もう起爆寸前。
銅像の前には──エルマー君。
「危ない!!!」
私はエルマー君を抱きしめ、横へ飛び込んだ。
ばんっ!!!!!!
銅像が弾け飛び、破片が部屋に散った。
私はエルマー君を抱いたまま、床を転がります。
そして──
どおおおおん!!!!!!!
遠く離れた倉庫で、大爆発が巻き起こるのが見えました。
火柱が天に向かって上がり、窓ガラスが揺れる。
確かあっちの方向はベルン様が言っていた倉庫です。盗聴器の大量保管場所だったはず。
その瞬間、私は悟りました。
──これは偶然ではない。
──誰かが、意図的に“証拠”を消しに来た。
この部屋は確実に盗聴されていた――と。




