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大精霊の器が辿った道  作者: 安達りあ
水の令嬢編
9/22

第九話 護りたい

 床を揺らす衝撃が交差し、光と影がぶつかる轟音が響く中、ふと、空気がひび割れるような異質なざわめきが走った。

 ルーカスが剣を振り下ろす寸前で、ルクが影へ牙を突き立てる寸前で、二人の動きが凍る。

 胸の奥、魂そのものに触れるような鋭い痛みが走る。

「……まさか、」

 ルーカスの瞳が、大きく揺れる。

 ルクの体毛が逆立ち、全身が震える。

「……お嬢様の魂にヒビが、入っている」

 まるで、壊れる寸前のガラスのように。

 アルセーヌは、止まった二人を見て、唇を歪めた。

「今ので死んだようですね。魂の震えは、美しいですね」

 アルセーヌは一片の悲しみもなく、むしろ愉悦を滲ませた声で続けた。

「では、貴方たちも早く殺して、あの人間の力を、ゆっくりいただくとしましょう」

 影が爆ぜ、攻撃が再開される。

 ルーカスとルクの瞳に宿ったのは、恐れではなく、完全なる激怒。

「レヴェリアの力は絶対奪わせない!」

 ルクの声は低く、地鳴りのようだった。

 戦闘は先ほどまでとは別次元の激しさを帯び始める。

 光の嵐、黒炎の咆哮、影の刃。

 三者の攻撃がぶつかり合うたび、床が砕け、壁が割け、空気が悲鳴を上げた。

 戦力の数だけ見れば、ルーカスとルクが有利に見える。

 だが、アルセーヌがついに本気を見せ始めた。

 影の密度が跳ね上がり、魔力そのものを呑み込む。

 だが、これから奪うつもりのレヴェリアの魔力を傷つけないために、悪魔の魔力は解放しない。

「さあ、始めましょう」

 アルセーヌが、床を蹴る。

 動きが、先ほどまでとは比べものにならないくらい速くなった。

 影が裂け、アルセーヌは一瞬でルクの死角へ回り込んだ。

「まずはあなたから」

 鋭い音と共に、黒刃が走る。

「ッぐ……!!」

 ルクの右目から鮮血が吹き出した。

 片目が斬り裂かれ、視界が半分真っ赤に染まる。

 それと同時に、背後でルーカスの悲鳴が上がった。

「ぐぁあッ!!」

 黒刃がルーカスの肩を深々と貫いていた。

 硬い肉を裂く音響き、鮮血が滴る。

 アルセーヌが、ルーカスの肩に刺さった刃を、押し込むように近づきながら、囁いた。

「お前が慕っているあの人間と同じ傷ですね」

 口元を歪めながら楽しそうに。

「仲間意識が芽生えて嬉しいでしょう?ほら、お嬢様と同じ場所を貫かれた気分は?」

 光の刃を握っていたルーカスの手が震える。

 痛みからではない。

 怒りとも少し違う。

ーー狂気に近いほどの憤怒だ。

 ルクも片目から血を流しながら、牙を剥き出しにして吼える。

「てめぇ、まじゆるさねぇ」

 アルセーヌは微笑みながら、ルーカスから剣を引き抜いた。

 ルーカスは傷を回復させようと、肩に魔力を集中させる。

 だが、なかなか傷は癒えない。

 ルーカスが焦っていることに気づいたアルセーヌは、悪戯な笑顔で言い放った。

「この影の刃に斬られたら回復できませんよ」

 ルーカスは声を失った。

 ルーカスはアルセーヌを倒して、レヴェリアを回復させようと思っていた。

 だが、影の刃に貫かれた、レヴェリアの回復はできない。

 それに、レヴェリアの魂にはヒビが入っているいわば仮死状態だ。

 ルーカスもルクもまだなんとかなる、レヴェリアを助けることができると思っていた。

 だが、二人ははじめて覚悟してしまった。

 このままでは、レヴェリアを失ってしまう。

 二人の魔力が格段に上がった。

 もう、これ以上引くわけにはいかない。

 ルーカスは剣を構え、ルクも魔力を固めた。

 だが、その覚悟をあざ笑うように、アルセーヌは指を弾いた。

 その瞬間、黒い杭のような影が、空中に現れた。

「ーーッ!!」

 その杭が、ルーカスとルクの足を正確に貫き、骨ごと串刺しにした。

 二人は、地面に倒れ、悲鳴を噛み殺している。

 アルセーヌはそんな二人を見下ろし、心底楽しそうに目を細めた。

「おやおや、そんなに怒らないでください。あなた方はよほどあの人間が好きだったようですからね」

 アルセーヌは足が貫かれ、動けないルーカスとルクを、まるで甘味でも味わうように舌で転がす。


「だからこそ、あの人間の膨大な魔力が、私に吸い上げられる瞬間を、じっくりと見届けさせてあげましょう」

大精霊の器が辿った道を読んでいただきありがとうございます!今日から私の都合で、投稿しやすい夜の10時〜11時くらいの投稿になりました。今までは毎日投稿していましたが、もしかしたら投稿できない日が出てきてしまうかもしれません。頑張って書いていくので、これからもよろしくお願いします!

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