第八話 意思と過去
ルクが爪を光らせ、飛びかかる。
アルセーヌの影の壁が迎撃し、爪と闇が激突して火花を散らす。
ルーカスの光の刃が、弧を描いてアルセーヌの腹を切り裂く。
だが、影が裂け目を閉じ、肉体は霧のように分散して避けられる。
「おや、惜しいですね」
「黙れ!!」
ルーカスが激情と共に、無数の光の矢を放ち、戦場を白く染め上げる。
同時にルクがその影に食い込むように飛び込み、牙を剥く。
「アルセーヌーーッッ!!」
だが、アルセーヌは一歩も引かない。
その足下から噴き出す黒の魔力は、空気そのものをねじ曲げるほど濃い。
「さあ、もっと楽しみましょう。先の短い運命を」
レヴェリアは床に横たわったまま、血に濡れて動かない。
ルーカスもルクも、何度も視線を向けないようにしていた。
見てしまえば、正気を保てなくなるからだ。
「すぐに助けます。待っていてください、お嬢様」
「まだ死ぬな、レヴェリア」
二人は祈りを噛み締めながら、アルセーヌに立ち向かった。
◇◆◇
アルセーヌがレヴェリアの前に、現れたとき、レヴェリアはクロノスの実験によって傷だらけだった。
アルセーヌは、今すぐにでも、レヴェリアを殺して、大精霊の魔力を奪おうと思っていた。
だが、アルセーヌはレヴェリアのひと言に興味が湧いた。
「私を殺すの?結局みんな、大精霊の魔力しか見てないのね。でも、もういいわ。早く殺して」
アルセーヌはとても驚いた。
脆い人間だと思っていたのに、こんなに強い心を持っていたなんて。
もっと、この人間について知りたい。
それだけだった。
アルセーヌはレヴェリアの前に、跪いた。
「では、行きましょうか。我が主」
◇◆◇
ルーカスの剣が捻りを上げて、振り下ろされる。
アルセーヌは指先ひとつでそれを弾き、影を裂いて後方へ滑るように退いた。
ルーカスの声は震えているのに、怒りで火のように熱い。
「どうしてだ、アルセーヌ!どうして今更裏切った!お前はあの方を守るためにここにいたんじゃないのか!」
アルセーヌは、まるで子供の質問に答えるような柔らかい笑みを返す。
「裏切り?そんな大層なものじゃありませんよ」
影が揺れ、周囲の灯りが飲み込まれるほど、魔力の濃度が増す。
「そもそも私は悪魔です。あなた方みたいな甘ったるい慈悲も、愛情も、持ち合わせていません」
ルーカスから歯を噛み砕くような音が聞こえた。
だが、ルーカスは理解していた。
自分やルクが例外なだけで、本来の悪魔はそうゆうものだ。
大精霊の魔力が殺してでも手に入れたい至高の糧。
ルーカスはレヴェリアを殺したくないだけだ。
そんなルーカスだってレヴェリアを、大精霊の器として見たことがある。
だが、レヴェリアに仕えると決めた。
それを、裏切ることは、ルーカスにはできない。
恐らくルクも似たようなことを考えているだろう。
***
ルーカスがレヴェリアを殺さない理由は、ルーカス自身もよく分かっていない。
セバスチャンが大精霊の器を気に入っていて、仕えていると聞いて興味が湧いた。
それで、気がついたら会いに行っていた。
レヴェリアはルーカスのことを見ても、一切怯えなかった。
そのことに、ルーカスは驚いた。
悪魔を見て、怯えなかった人間なんてはじめてだ。
その時、ルーカスは心に決めた。
ーー私を拒絶しなかったレヴェリアを守り通そう、と。
***
誰も詳しくは知らないが、ルクもきっと同じなのだろう。
仲が良くも悪くもない、ルーカスとルクが協力して、アルセーヌを倒そうとしている。
そのことにアルセーヌは笑いが込み上げてきて止まらない。
「何故あなたたちはそんなに必死になって大精霊の器を守るのでしょうね」
ルーカスとルクが同時に、叫ぶ。
「「主が俺たちのすべてだからだ!!」」
アルセーヌは真顔で呟いた。
「もういいです。さっさと終わらせるとしましょう」
いつも大精霊の器が辿った道を読んでいただいてありがとうございます!まさかの今日で私の冬休みが終わってしまいますので、明日からは夜の10時〜11時に投稿させていただきます。忙しくなるのでもしかしたら毎日投稿できなくなってしまうかもしれません。申し訳ありません。頑張って書いていきますので、これからもよろしくお願いします!誤字脱字には気をつけていますが、至らぬ点があればご容赦ください。感想等も気軽に書いてください!




