第七話 終わりと愉悦と絶望と
ルーカスの輝く魔力が空気を裂き、ルクの黒い魔力が地面を砕く。
二人の怒気は爆ぜる炎のように、アルセーヌへ襲いかかった。
アルセーヌは笑いながら、二人の攻撃をいなす。
アルセーヌは足元に影のような魔力を滑らせ、斬撃の流れを変え、まるで踊るように戦場を渡る。
「おやおや……本気の悪魔らしくなってきましたね」
ルーカスの魔力が閃光となって迫る。
ルクが黒い衝撃波を伴って突っ込む。
だが、決定打が入らない。
攻撃は当たっているはずなのに、致命には全く届かない。
ルクが歯を食いしばる。
(速い……。常に気配は追っているはずなのに、姿が消える)
ルーカスの背中に冷汗が伝う。
(狙いはずっと、あの方だけ……!)
二人が一瞬で距離を詰める。
その一刹那、アルセーヌの気配がふっと霧のように消えた。
「しまっ……!」
ルーカスの声が届く前に、アルセーヌの腕が、レヴェリアの細い体を前から絡め取っていた。
次の瞬間、アルセーヌはレヴェリアの息が詰まるほど彼女を強く抱きしめた。
レヴェリアは肺が押しつぶされるように圧迫されて、かすかな呻き声が喉で震えている。
ルーカスとルクの顔が一瞬で絶望に変わる。
「放せーーッ!!」
二人が同時に飛びかかる。
だが、もう遅かった。
アルセーヌの手が、レヴェリアの背中に触れた。
「さあ、終幕といきましょうか」
冷たい声と共に、鋭い刃がレヴェリアの背中に突き立てられる。
そして、深く、ためらいなく。
「ーーっ……!」
レヴェリアの体がびくりと震え、胸元が赤く染まっていく。
声を出す暇もないほどの衝撃。
呼吸が止まりそうなほど苦しい。
アルセーヌはレヴェリアの耳元に、愉悦に濡れた声を落とす。
「やっと……やっと見られましたよ。あなたの壊れそうな表情」
ルクの叫びが彼の喉を裂く。
「レヴェリアァァアアアア!!」
ルーカスの怒気は爆発し、周囲の魔力が全て彼に吸い寄せられていく。
アルセーヌの腕の中で、レヴェリアの瞳だけはまだ揺れていない。
痛みに耐えながらも、ただ、まっすぐ、アルセーヌを見つめている。
ルーカスが、低く声を絞り出した。
「アルセーヌ……絶対に、逃さない」
アルセーヌが、レヴェリアの小さな体を離した。
次の瞬間どさり、と生気の抜けた重さだけを残して、床へ崩れ落ちた。
白いワンピースの胸元と肩が深紅に染まり、呼吸の気配すらない。
ルーカスの思考が、一瞬完全に真っ白になった。
ルクは声にならない声を必死に吐いている。
そんな二人を見ても、アルセーヌは微笑みを浮かべている。
「さて、このままではゆっくりこの人間の魔力を奪うこともできなさそうですね」
アルセーヌは、足元に広がる血を気にも留めず、靴先で床を軽く叩く。
「邪魔者が多すぎます。では、ルーカス、ルク。あなた方もまとめて殺してさしあげましょう」
黒い影が爆ぜるように、アルセーヌの背から噴き上がり、空気を裂いた。
ルクの咆哮が重なる。
「てめぇだけは絶対に許さねぇ!!」
ルーカスは周囲の魔力で剣を成形し、それをしっかりと握りしめた。
その瞳は怒りを通り越し、冷たい決意で満たされていた。
「お嬢様に触れたその腕、その存在ごと、消し飛ばしてやる」
アルセーヌは楽しげに口角を上げ、舌で犬歯をなぞる。
「その顔、最高ですね」
次の瞬間、三者の魔力がぶつかり合い、閃光のように交錯する。
彼らは、とっくに、それぞれの意思という名の道を歩き始めていた。
そして、道を引き返すことは、もう、不可能だ。




