風の殺し屋のお料理
今日は珍しく、ノクターンの拠点に全員集まっている。
ヌルは相変わらず自室に引きこもっている。
レオンも静かに昼寝しようかと思い、自室の寝台に寝転がっていた。
うとうとし始め、あと少しで眠りに落ちそうになったらその時、扉がノックされ、サイラスが入ってきた。
「ねぇ~レオン〜。夕食作るの手伝ってくれない?」
「なんで」
サイラスは大体のことはなんでも一人でできるので、何かを頼んでくることは珍しい。
なので、レオンは何かあるのではないかと少し警戒している。
「昼寝してたら、時間なくなっちゃったの」
「あ~、はい。分かりました」
レオンは特に怪しいところはないと思ったので、渋々体を起こした。
日々サイラスにはお世話になっているので、多少の手伝いはしたいのだ。
台所に行くと、サイラスにジャガイモと包丁を渡された。
「まず、これの皮を剥いて、一口大に切って。あ、芽は取ってね」
「はい」
レオンは今までずっと料理はサイラスに任せてきたので、料理はしたことがないがジャガイモの皮を剥いて切るくらいならできるだろう。
そう思っていた。
レオンは包丁をしっかりと握り、刃をジャガイモの表面に斜めに当て、皮を剥こうとした。
だが、その瞬間、力が入ってしまって、ジャガイモが勢いよく割れ、勢いよく飛び跳ねて壁にぶつかった。
「あ」
それをレオンは、なんとも言えない表情で見つめている。
ニンジンを切っていたサイラスは、その様子を見て苦笑している。
「あちゃー、ジャガイモは確かにちょっと難しいからね。じゃあ、こっちの鍋混ぜといて。火が強くならないように見といてね」
「はい」
レオンは今度こそ成功させるぞと思いながら、木べらを握りしめ、鍋のなかのシチューをかき混ぜる。
だが、しばらくして、少し焦げ臭い匂いが台所に漂ってきた。
レオンはこんなものかと思って、特に気にしていない。
焦げ臭い匂いに気づいたサイラスが慌てて鍋のもとに駆け寄る。
そして、レオンが持っていた木べらを取り、鍋の底のほうのシチューを上に持ってくる。
すると、案の定、黒い塊が出てきた。
「あちゃー。底の方焦げちゃったね。しかも結構焦げてるね」
「えっ」
普段はあまり表情を変えないレオンが顔を顰めて驚いている。
「まあ、いっか。……うん、レオン、ちょっと……お皿、並べといて」
「……はい」
レオンに料理は無理だと判断したサイラスは、レオンに小さな子どもでもできるような仕事を頼んだ。
さすがにレオンでも皿を並べることはできるようで、繊細な風魔法で皿の戸棚を開け、風で華麗に机に皿を並べる。
サイラスがその皿にポテトサラダとシチューを盛り付ける。
「よし!完璧だね!」
「はい」
そう言って、サイラスとレオンは二人で居間に料理を運ぶ。
そうすると、居間にヌル以外のメンバーが全員集まってくる。
「「いただきます!!」」
皆が料理を食べ始める。
だが、場は沈黙に包まれる。
そんな中、クロウが口を開いた。
「サイラスさん、ジャガイモ大きいね」
サイラスはレオンのほうを向いて、苦笑している。
当の本人は、何も気にせず淡々とポテトサラダを食べている。
次に、エレボスが口を開いた。
「なんか、シチュー黒くないっすか」
サイラスの苦笑が一段と増す。
そして、全員の顔がレオンに向く。
だが、レオンは顔を逸らして、冷や汗を垂らしている。
何においても完璧に見える風の殺し屋は、料理が絶望的に下手であった。
だが、戦場では失敗はしないだろう。




