風の殺し屋は面倒事に好かれる
レオンは今日、久しぶりに任務も何もない日なので、一日中読書でもして、寝ようかと思っていた。
だが、レオンという男のもとには可哀想なことに、面倒事が舞い込んでくることが多い。
今日も今日とて、レオンのもとに面倒事がやってくる。
「おい、レオン!一緒に街へ遊びに行こうぜ!」
エレボスが急に部屋にやってきたかと思えば、無駄に大きな声で、遊びに誘ってくる。
「嫌に決まっているだろ」
レオンはエレボスを見ることすらせず、エレボスの誘いを断る。
だが、その程度で折れるエレボスではない。
「ふーん。じゃあ、俺、お前がサイラスに内緒で、新しい高い時計買ったこと言っちゃおうかなー」
ノクターンにはお金や物に執着する者は少ないので、基本的にはお金を共通で使っている。
だが、食料品などの生活費は必要になるので、あまり余計なものを買いすぎると、サイラスにこっぴどく叱られるのだ。
サイラスは滅多に怒らないが、怒ったらとても長い説教をするので、正直それだけは避けたい。
レオンは大きくため息をつきながら、エレボスを睨む。
「今日だけだぞ」
「やったーー!!」
エレボスはレオンと街に行けることが決まって、飛び跳ねて喜んでいる。
そうして一時間後、レオンとエレボスは特に欲しいものも行きたいところもないので、ふらふらと街を歩いていた。
「お前、何か行くところがあったから誘ったんじゃないのか」
「なにもないぜ!だけど、一緒に遊べて楽しいだろ!」
ちょっとした言い合いをしながら歩いていたその時、後ろから背の高い女性に声をかけられた。
「……あの、すみません」
レオンとエレボスは即座に反応し、振り返る。
二人は殺し屋なので、気配にはかなり敏感だ。女性にも警戒しているが、威圧して怪しまれるわけにもいかないので、あくまでも笑顔で対応する。
「どうしたんだ?」
「実は、猫がいなくなってしまって、捜すのを手伝ってもらえませんか?」
「おう!任せとけ!」
エレボスはかなり乗り気だが、レオンは心のなかで大きくため息をついた。正直、とても面倒くさいがエレボスが引き受けてしまったので、断るわけにもいかないだろう。
「猫は白色で、目は金色です。エミリーって呼んだら反応すると思います。よろしくお願いします」
そう言って、女性は走り去っていく。
その後、レオンは狭い裏路地に入り、感知魔法を広い範囲に展開した。
その時、近くの建物の屋上に、動物の気配を感じた。
「猫の反応がする場所を洗い出した。行くぞ」
「おう!ありがとよ!」
レオンとエレボスは素早くそばにあった建物の屋根に登り、猫がいる場所に向かう。
まったく面倒事が多いな、とレオンは呆れていた。
しばらくして、エレボスが目にも止まらぬ速さで猫を捕まえた。
「お前、エミリーか?」
レオンは億劫そうに、いつもより低い声で猫に話しかける。
「にゃー」
猫は尻尾を大きく振って肯定している。
レオンとエレボスは女性のもとに向かい、猫を手渡した。
「もう、エミリー、心配したのよ」
女性は猫を撫でながら、軽く叱っている。
だが、すぐにレオンとエレボスに微笑みを向ける。
「お二人共、ありがとうございました!何かお礼を……」
「いや、大丈夫だぜ!良い暇つぶしになったよ」
女性はお礼を贈ろうとしたが、エレボスが即座に断る。
「そうですか……。とにかく!本当にありがとうございました!!」
何を言っても受け取ってくれないだろうと思った女性は、とても可愛らしい笑顔で二人を見つめた。
その笑顔にレオンは、自分にはよくわからない感情を覚えた。
普段、殺し屋として生きているレオンにとってその笑顔は、心に残るものだったのだ。
たまには、面倒事も悪くないかもしれない。




