風の殺し屋は苦労人
今日、レオンは特に任務も入っておらず、やることもなかったので、居間でコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいた。
任務があろうがなかろうが、情報収集は大切だ。
新聞を半分くらい読み終えたとき、アウレリアンが話しかけてきた。
「レオン、あとでヌルに次の任務を伝えておいてくれないか」
「え、嫌です」
レオンはアウレリアンの頼みを、即座に断った。
レオンの所属する暗殺組織ノクターンは、それぞれが特定の技術に特化している。
なので、ノクターンではそれを元に、アウレリアンが決めた任務をメンバーは淡々とこなしている。
それは決してヌルも例外ではなく、ヌルにももちろん任務は発生するので、そのときはヌルに任務内容を伝えなければならない。
だが、ヌルは基本的に部屋に引きこもっている上、とても気難しい性格だ。
そのため、いつもはノクターンのなかでは母のような存在であるサイラスが、苦闘しながらもヌルに任務内容を伝えている。
だが、今はサイラスが任務のため、不在だ。
コミュニケーション能力が高いエレボスも不在だ。
一応クロウは部屋にいるが、クロウもまた、気に入った人間としか話さないので、クロウがヌルに任務内容を伝えるのは不可能だろう。
かといって、わざわざアウレリアンに行かせるのも気が引ける。
レオンが行くしかないのだ。
レオンは大きくため息をついて、両手を挙げた。
「はいはい、分かりました。言ってきますよ」
レオンはアウレリアンから任務内容を聞き、ヌルに伝えるために、ヌルの自室の扉を軽くノックした。
「おい、ヌル。任務だ」
だが、部屋から返事は聞こえない。
「ヌル。聞いてるか?任務だ」
レオンはもう一度、強めにノックしてみるが、やはり返事は聞こえない。
「入るぞ」
このままでは埒が明かないので、レオンは扉を開け、遠慮なく部屋に入る。
その瞬間、レオンの顔面に本が飛んできた。
レオンは風魔法でそれをいなし、本に傷がつかないように風で丁寧に床に置いた。
「ヌル。任務だ」
レオンは何事もなかったかのように、椅子に座ってこちらを睨んでいるヌルを見つめる。
「勝手に入ってくるな。殺すぞ」
「反応しなかったお前が悪いんだろ。それより任務内容を聞け」
「やだ」
ヌルは魔法で発生させた大量の刃をレオンに向けて放つ。
レオンはその軌道を風で変え、床に刺さるように仕向ける。
その隙にも、ヌルは絶え間なく刃を打ち込んでくる。
「おい。話を聞け」
「あぁ?」
「来週、この地図の家にある書簡を入手しろ」
レオンは相変わらず絶え間なく飛んでくる刃をかわしながら、任務を頑張って伝えようとする。
「そんなのクロウにでもやらせておけば良いだろ」
だが、基本的に部屋から出たくないヌルはやる気がないようだ。
「クロウは別の任務に出ている。クロウの次に潜入が得意なのはお前だ。お前が行け」
ヌルが主に得意としているのは証拠隠滅だが、潜入や情報収集においてもかなり優秀だ。
「行かないって言ってるだろ!!」
その時、ヌルが叫びながら、今までのものとは比べものにならない、成人男性ほどの大きさの刃を飛ばしてきた。
どうやったら、あの小さい体から、こんなに大きな刃が生み出されるのだろうか。
レオンはさすがに魔法でこれをいなせば、建物が崩壊してしまうと思い、後ろに跳んでそれをかわす。
そして、レオンは任務を伝えることを諦め、居間に向かう。
「アウレリアン様。これ、俺が行ってきます」
「お前、任務まみれになるぞ」
来週、レオンは大量に任務が入っている。
だが、自分が任務内容を伝えることができなかったので仕方がないと思ったのだ。
「行けますよ。任せてください」
レオンはそう言って、自室に戻っていった。
そして、寝台に寝転がり、舌打ちをした。
「ブラック企業すぎるだろ……」




