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水の令嬢は猫が好き

 今、部屋は暖かく、穏やかな空気に包まれている。

 その中で、今日も今日とて、レヴェリアは窓際のソファに座り、読書をしている。

 レヴェリアは力が弱いので分厚い本を持つと疲れるので、膝の上に本を乗せているが、姿勢は非常に良く、背筋がピンと伸びている。

 レヴェリアの隣にはルクが寝転がっており、レヴェリアは器用に片手でルクを撫でながら読書している。

 アルセーヌが後ろから音もなく近づき、レヴェリアに紅茶を差し出す。

「お嬢様、一旦休憩としましょう」

「ありがとう」

 ここで断るとアルセーヌにガミガミ叱られる可能性が高いので、レヴェリアは渋々本を閉じ、紅茶を飲みながら窓の外を眺める。

 庭では、ルーカスが花壇の花に水やりをしている。

 この屋敷は、エーヴェルヴァイン邸の別邸だが、屋敷だけでなく、庭もなかなかの広さがある。

 それを一人で手入れしているルーカスはすごいなとレヴェリアも密かに感心している。

 その時、レヴェリアの目にあるものが映った。

 それは艷やかな黒い毛並みと黄色の月のような瞳を携えている、とても愛らしい動物。

 猫だ。

 その猫は、ルーカスのほうに近づき、ルーカスの足にまとわりついている。

 そのなんとも言えない愛らしさに、レヴェリアは見入っている。

 レヴェリアの様子がいつもと違うことに気がついたアルセーヌは、不安げに話しかける。

「お嬢様、いかがなさいましたか?」

「……なんでもない」

「本当ですか?脈拍が少し早まっております。疲れたのですか?」

 レヴェリアは感情がほとんど表に出ないので、アルセーヌはレヴェリアが猫に見惚れているのではなく、体調が優れないのではないかと思ったのだろう。

 ふと、アルセーヌはレヴェリアの視線がずっと同じところに向いていることに気づく。

 レヴェリアの視線が動かないこと自体は、よくあることなのでおかしい訳ではないが、目がいつもより細くなっている。

 そして、アルセーヌはレヴェリアの視線の先に猫がいることに気づいた。

「……お嬢様、もしかして、猫がお好きなのですか?」

「うるさい」

 アルセーヌが問うと、レヴェリアは食い気味に曖昧な返答をした。

「猫、飼います?今すぐに捕まえてきますけど」

 レヴェリアが下を向いて、しばし逡巡したが、首を横に振る。

「……いらない。見てるだけで、良いの」

「……そうですか」

 だが、レヴェリアの視線はずっと猫とルーカスに向いている。

 やがて、猫は庭から出ていき、近くの森に消えてしまう。

 それと同時に、レヴェリアは本を開き、読書を再開する。

 ルクはすっかり眠ってしまっているが、レヴェリアは片手でずっと撫で続ける。

「……素直に言えばよろしいのに」

 アルセーヌは口に出すつもりはほとんどなかったが、心の声が漏れてしまう。

 だが、レヴェリアは読書に没頭しているので、アルセーヌの呟きには一切気づいていない。

 しばらくして、ルーカスが元気にはしゃぎながら、部屋に入ってきた。

「聞いてください!お嬢様!庭に、猫がいたんですよ!黒猫!可愛かったです!」

「……そう」

 レヴェリアは本に視線を向けたまま、素っ気なく返事する。

 だが、その表情はどこか寂しそうに見えなくもない。

 ルーカスは一人でるんるんと、部屋の掃除を始める。

 アルセーヌは一人でため息をつきながら、レヴェリアのことを想った。

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