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水の令嬢は引きこもり

 レヴェリアはあまり屋敷の外に出たことがない。

 舞踏会や夜会、お茶会などの社交界も、近くの街にも行かない。

 外に出るとしたら、月に数回、綺麗に整えられた庭へ散歩に行く程度だ。

 それも、ルーカスに誘われて渋々行っているだけである。

 レヴェリアが外に出ない理由は、病弱だとか、過去のせいで人と接するのがあまり得意ではないなど色々あるが、一番の理由は単純に面倒くさいからである。

 誰かが、レヴェリアを外出に誘うと、レヴェリアはいつも嫌な顔をして、このようなことを言う。

「外に出て何が楽しいの?準備するのに時間がかかるし、暑いし、動くの嫌だし、疲れるし、太陽は眩しいし。外に出るくらいなら、部屋で本を読むほうが有意義よ。花?そんなもの窓越しで充分でしょう」

 つまりは、典型的な引きこもりだ。

 そんなレヴェリアに対して、アルセーヌとルクは、主が行きたくないと言うならそれに従うのみという忠誠心から、外出に誘うことはない。

 だが、ルーカスは違った。

 ルーカスはレヴェリアにはもっと色んなものに触れてほしいと思っており、時々散歩に誘っている。

 ルーカスはふと思い立って、読書をしているレヴェリアに話しかけてみた。

「お嬢様。今度、街のそばにある丘に行ってみませんか?」

 その瞬間、レヴェリアが全力でルーカスを睨む。

「なんで?」

 その言葉にも、温度はなく、背筋が凍ってしまいそうだ。

 だが、ルーカスは諦めない。

「あの丘は良いですよ。穏やかな風が心地よいですし、人も少ないですよ」

 レヴェリアの顔が一段と不機嫌になる。

 それに気がついたアルセーヌが口を挟む。

「別に強要するものでもないでしょう」

「ですが、たまにはリフレッシュも必要でしょう」

「たしかに、日光を浴びることは悪いことではありませんけど……」

 いつもはルーカスの意見を蹴り飛ばすアルセーヌが、珍しくルーカスの意見に耳を傾けている。

 そのことに、レヴェリアは嫌な予感がして、現実逃避のために読書に没頭することで、二人の話を無視しようとする。

 その時、散歩から帰ってきたルクが話に突っ込んでくる。

「レヴェリア。外に出るのは楽しいぞ」

「なんで」

「開放感があるし、その辺の雑魚に八つ当たりしたら、ストレス発散にもなるぞ」

 ルクが物騒なことを言うので、ルーカスがルクの口を塞ぎ、アルセーヌが笑顔でレヴェリアに話しかける。

「とりあえず、庭でもいいですから散歩に行きませんか?」

 アルセーヌは普段この手のことに誘ってこないので、レヴェリアは警戒している。

「……嫌」

 アルセーヌもルーカスも二人揃って困り顔をしている。

 そこでアルセーヌがレヴェリアの顔を覗き込み、肩に手を置いた。

「本見えない……」

「読書も確かに良いことです。ですが、お嬢様は些か運動不足だと思います」

 アルセーヌの発言はレヴェリアの気に触れてしまったようで、レヴェリアは本を閉じ、アルセーヌも押し退けて、ソファに横になる。

「……うるさい」

 レヴェリアがうつ伏せになったので、顔が一切見えない。

 レヴェリアがここまで拗ねることは滅多にないので、アルセーヌは怒らせてしまったと少し後悔する。

 だが、アルセーヌもレヴェリアを心配しているのだ。

 ずっと外に出ずに、読書に明け暮れているレヴェリアを。

 ずっと引きこもっているレヴェリアを、外へ連れ出したいとは思っていたのだ。

「……行かないから……」

 だが、この様子ではしばらくは無理だろう。

 アルセーヌとルーカスとルクは顔を見合わせて、ため息をついている。

 レヴェリアはソファで不貞寝をしている。

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