第五話 では、次は
今、レヴェリアは珍しく、少し微笑んでいる。
ルーカスがケーキを作ってくれたのだ。
レヴェリアはそのケーキを頬張っている。
「やっぱりルーカスのケーキが一番だわ」
「光栄です」
レヴェリアは普段、感情が乏しいが、ルーカスのケーキを食べるときだけは、年相応の笑顔を見せることがある。
ルーカスはそんなレヴェリアを見るのが大好きだ。
そのため、ルーカスはレヴェリアの好みを詳細に把握するべく、日々探りを入れている。
「お嬢様はイチゴのケーキかチョコレートのケーキ、どちらの方が好きですか?」
レヴェリアが手を止めてしばらく考え込む。
「うーん。イチゴのケーキかしら。セイロンと一緒に食べるのが好きだわ」
「では、次はイチゴのケーキを作りましょうか」
その時、レヴェリアの足元から大きな欠伸が聞こえた。
「あら、昼寝は終わり?ルク」
「ああ。もう十分寝た」
後ろに控えていたアルセーヌがルクを睨む。
「ええ。部屋の真ん中で寝ていたのでとても邪魔でした」
「おう、すまん」
二人の間に火花が散ったような気がした。
だが、今のレヴェリアとルーカスはそんなことは全く気にしていない。
完全にケーキの世界に入り込んでいる。
そんな平穏な時間のはずだった。
急に部屋の魔力が揺れた。
レヴェリアが顔をしかめる。
「お嬢様!」
ルーカスが瞬時に駆け寄り、レヴェリアを支える。
アルセーヌもレヴェリアのそばに移動し、レヴェリアに魔力以外の異常がないかを確認している。
ルクは周りに警戒している。
レヴェリアは体の力が抜けていて、ルーカスの支えに頼り切っている。
魔力が異常に揺らぎ、制御しきれていない。
「お嬢様、魔力を流します。少し耐えてください」
「……ええ」
ルーカスがレヴェリアの手に触れ、慎重に魔力を流し出す。
だが、レヴェリアの魔力の揺れは収まらない。
それどころか、だんだん魔力の揺れが大きくなっている。
アルセーヌがレヴェリアの手に触れる。
「見た感じ魔力以外の異常はありませんでした。魔力循環が上手くいっていないと考えるのが妥当でしょう。私がお嬢様の魔力循環を徹底的に調べ上げます。あなたは揺れをどうにかしてください」
「わかりました」
魔力の操作自体はルーカスの方が圧倒的に得意だが、人間の魔力循環の構造に詳しいのはアルセーヌの方だ。
二人がレヴェリアの魔力を制御しようと奮闘していると、急に、ルクが声を荒げて叫んだ。
「おい!なんか来るぞ!」
その瞬間、部屋の扉から四十人ほどの黒い外套を纏った人間が雪崩れるように押し入ってくる。
「「大精霊の器を差し出せ!」」
「まさかクロノスか!」
ルクが喉を低く鳴らす。
「数が多いな。アルセーヌ、お嬢様を任せた」
そう言い捨てて、ルーカスはレヴェリアをアルセーヌに託して、ルクと共にクロノスと戦い始める。
アルセーヌはレヴェリアを抱えて、後ろに下がる。
だが、レヴェリアはアルセーヌの腕から飛び降りて、自分の足で立つ。
「お嬢様?」
「クロノスが出てきたのよ。これは私の運命よ」
アルセーヌは目を限界まで見開いた。
アルセーヌは思った。
ーーこの人間の運命は、美しい。
クロノスと戦っていたルーカスとルクは違和感を覚え始めた。
「おい、こいつらの戦い方おかしくねぇか?レヴェリアを奪う動き方じゃねぇ」
「たしかにまるで他に何かを仕込んでいるかのような……」
クロノスが笑った。
クロノスの幹部らしき人物が手に持っていた金具が付いている魔石を掲げた。
その瞬間、レヴェリアの体が大きく揺れた。
魔石がレヴェリアの魔力を荒らし始めたのだ。
だが、レヴェリアは自分の足で苦しみながらも立っている。
「流石です、お嬢様。それでこそ、殺しがいがある」
アルセーヌは影の魔法で剣を作り、それをしっかりと握りしめた。
「やっとこのときが来たのね、アルセーヌ」
「冷静ですね、お嬢様。もっと怯えてくださると嬉しいんですけど」
レヴェリアは笑った。
「お断りよ」
「そうですか。期待外れです」
アルセーヌは自分の主に剣を向けた。
その瞳に、一切の迷いはなかった。




