最終話 過去から未来に
使者は火の外へ出ようと、足を速めた。
そして、使者とルカとアガサと数名の村人は火の外に出ることができた。
だが、大多数の人間は火の中に閉じ込められたままだ。
ルカは、使者に抱き上げられているので、泣き叫びながら、火の中に向かって手を伸ばすことしかできない。
「やだあぁぁっ!!」
だが、ルカは分かっている。
皆、ルカを大切にしてくれていて、ルカが一番だ。
皆、ルカを守るためならなんだってする。
瘴気が、残っている者たちの方へ向かっていく。
そして、瘴気が黒く光り、轟音を発しながら炸裂した。
ルカはその異様な光に、思わず瞼を下ろす。
使者とアガサも視線を下に逸らした。
音が止んだので、再び火の中に目を向ける。
そこには、何もなかった。
ただただ、火が広がっているだけだ。
さっきまでそこにあった建物の瓦礫も、ルカを逃がすために戦っていた者たちもいない。
まるで、最初から何もなかったかのように。
「あああぁぁぁぁぁっっ!!!」
ルカは半ば錯乱状態で、泣き叫んでいる。
ルカの、大精霊による魔力が暴れ、ルカの周りにバチバチと魔力が溢れている。
それに気づいた、アガサがルカに駆け寄り、ルカの背中をさする。
「落ち着いてください。ルカ様」
ルカの幼い身体では、大精霊の魔力の暴走に耐えることができないだろう。
ルカの瞳の色が濁っている。
アガサがルカの魔力を宥めるように、暴走を抑制する。
ルカも、ギリギリの意識で魔力を制御し、抑え込んだ。
「……すみません」
まだ完全とは言い難いが、ルカが落ち着いてきた。
そして、生き残っている者で、この場から少しでも離れた場所に行こうと歩き始めた。
だが、その時、使者たちの前に、瘴気が現れた。
「「ルカ様!伏せて!!」」
村人が即座に前に出て、結界を張る。
だが、急いで張った結界なので、完全に完成していなかったようで、結界は砕け散ってしまう。
そして、ルカを守るために身を賭した村人たちは、瘴気に当てられそのまま地面に倒れ、命を落とした。
今、まだこの場に残っているのは使者とアガサとルカのみとなった。
アガサが覚悟をした顔で、一歩前に出た。
その瞬間、アガサの魔力が爆発的に上昇した。
恐らく抑え込んでいた魔力を、すべて解放したのだろう。
そしてアガサが、長い詠唱を始める。
使者はアガサの意思を読み取ったのか、風魔法でルカを遠くに飛ばし、アガサの肩に手を置いた。
地面に投げ出されたルカは、膝や手を擦りむいたが、そんなことには気づいていないと言わんばかりに手を伸ばす。
その瞬間、使者が倒れた。
アガサにすべての魔力を注ぎ込んで、生きるために必要な魔力がなくなったのだ。
そして、アガサは長かった詠唱を終え、瘴気を見つめる。
その瞬間、瘴気の周りに透明なヴェールのようなものが現れ、瘴気を覆った。
一時的な封印を施したのだ。
アガサは大量の魔力を一気に使ったので、身体がその負荷に耐えきれず血を吐きながら倒れた。
「ベルクール先生!!」
ルカはアガサのもとに急いで駆け寄り、地面にしゃがみ込んだ。
だが、アガサは息をしていない。
「ベルクール先生、起きてよ……」
アガサと使者は、大精霊の器を野放しにするわけにはいかない、世界を変える力を持っている、そう思ってルカを守ったのだ。
ルカの頬に熱いものが伝う。
ずっと嫌いな場所で、ずっと嫌いな人たちだった。
ずっと嫌いだった場所が、燃えて消えた。
ずっと嫌いだった人たちが、自分を守るために死んだ。
この場所を守りたくて、この人たちを守りたくて、魔法を勉強し始めたのに、結局何もできなかった。
ルカは自分の無力さが嫌いになった。
自分は神なんかじゃない。何もできない子供なんだ、そう思った。
最近はアガサにも出会えて、みんなとも少し分かり合えて、孤独じゃなくなったと思った。
でも、孤独に戻ってしまった。
ルカはいつだって孤独だ。
やがて、瘴気の発生を感知した騎士団が、村に到着した。
ルカは保護され、騎士団は消耗しながらも瘴気を消滅させることに成功した。
だが、助けられなかった。
唯一助かったルカも、涙が止まることはない。
大精霊の器が辿った道を読んでいただき、ありがとうございます!土の聖子編が完結し、本編が完結となりました。ここまで書き続けることができたのは、読んでくださった方々のおかげです。ありがとうございました!これからは、外伝を書いていきます。明日はその前触れとして、今までに登場した主要人物のキャラクター紹介を投稿します。これからも頑張って書いていきますので、よろしくお願いします!




