第十話 崩れゆく日常
村に爆発音と悲鳴が響いてすぐ、ルカの元に村の人々が押し寄せた。
全員大層慌てていて、それだけで先ほどの爆発音が只事ではないと感じる。
「何があったのですか!?」
ルカは戸惑いはあるが、それでも、しっかりと状況を把握しようとした。
「急に、家が、爆発して……悪魔が、出て……」
その言葉に、この場にいる全員が固唾を呑んだ。
ルカも村の人々も、何も言えずに固まっている。
そこで口を開いたのはアガサだった。
「戦える者は、集まって!戦えない者は怪我人の治療を!」
「「は、はい!」」
アガサの言葉で、全員が動き始める。
全員がルカを囲うように並び始める。
「我々もお守りいたします」
そう言って、使者もルカを囲う人々の群れに参加した。
そして、黒い影がルカの前に現れた。
だが、何やら様子がおかしい。
まるで意思がないかのように、ふらふらと揺れている。
それにいち早く気づいたのは、アガサだった。
「全員!防御魔法!」
その言葉で全員が防御魔法を展開して、前に透明な壁を作り出す。
その瞬間、黒い影が爆発した。
それで、アガサは確信した。
「皆さん!これは瘴気です!」
瘴気とは、簡単にいえば、悪魔の残滓である。
悪魔界で、特に悪魔が多い場所では、魔力濃度がとても高くなる。それが変質し、この世に漏れ出てしまうことがある。
それを人は、瘴気と呼ぶ。
瘴気は意思を持たない自然現象なので、必ずしも目の前にいる人間を狙ってくるわけではない。
だが、元を辿れば、瘴気は悪魔によるものなので、単純に危険だ。
急に爆発したり、周りのものを無差別に呑み込んだりする。
アガサは瘴気に一度だけ遭遇したことがある。
瘴気を抑え込むのは相当大変だったらしい。
国でも屈指の結界術師六人がかりでも抑え込むのに、三日ほどかかったそうだ。
今の村の人間だけでは、不可能だ。
アガサは今、目の前にある瘴気をどうするかを全力で考えていた。
だが、瘴気はふらふらと窓から出ていく。
この場にいる全員が、ぽかんとしてそれを見つめている。
ルカや村の人々は安心した顔をしている。
だが、戦闘経験が豊富なアガサと使者の顔は焦燥に染まる。
その時、村の方から、今までのものと比べものにならないほど大きい爆発音が聞こえた。
全員の意識が窓に向く。
その後、焦げた匂いが窓から流れ込んできた。
アガサが恐る恐る窓に近づいて、外を見つめる。
そこには、炎に包まれた家々があった。
ルカはただただ絶望した。
いつも、この家々しか見られる景色がなくて、飽き飽きしていた。
もっと広い世界を見たいと思っていた。
でも、いざそれが燃えてみれば、そこには絶望しか残らない。
なんて皮肉なことだろうか。
村の人々は、燃えゆく家々を見て絶望はしなかった。
この建物を守るために、ルカを守るために、結界を張ったりするなど、既に動き始めていた。
ルカはそれを見て、勇気を取り戻した。
守られるだけではいけないと。
この先に待っているのは、未来か、それとも、絶望か。
それを知っているのは、本当の神だけなのだろう。




