第九話 暗い影が
今、部屋の空気はとてつもなく重い。
部屋の中心にあるソファにルカとアガサが並んで座っており、机を挟んで反対側のソファには国王からの使者が座っている。
そして、ルカの後ろにお付きが数人並んでいる。
そのお付きは全員、今にも使者を殺しにかかるのではないかというほど怪訝そうな顔をしている。
そのため、空気がものすごく重い。
ルカとアガサは空気の重さに戸惑い、苦笑している。
だが、使者とお付きはこの重さを既に経験済みなので、これっぽちも気にしていない。
ルカはあわあわしていて、何も話せずにいる。
それに気づいた使者が、大きく息を吸ってゆったりと話し始める。
「さっそく本題に入らせていただきますね」
使者が穏やかな笑みを浮かべたので、ルカは少し安心して、小さく息を吐いた。
「はい」
「ルカ様には、一度王城に来ていただきたく存じます」
ルカは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに真面目な顔に戻した。
「それは、どのような理由で?」
ルカは緊張して少し素っ気ない言い方をしてしまって、反省しているが、使者は穏やかな笑みを絶やさず真摯な姿勢で話しかける。
「国王陛下が大精霊の器を保護したいとおっしゃっているのです」
ルカは表情を変えずに、そっと頷いている。
「ルカ様も知っての通り、大精霊の器は非常に強力な力を有しています。それ故、狙われることも多い。ですので、一度王城で対策や対応について話し合いたいそうです」
「……なるほど。たしかに、そうですね」
ルカは考え込むように、顎に手を当てている。
だが、お付きはルカが王城に囚われてしまうのではないかと、ヒヤヒヤしている。
「たしかに、不要なことではないとは思いますが、そこまでする必要はあるのですか?」
ルカは知らないのだ。
周りの人間が伝えなかったから。
大精霊の器が、想像以上に狙われやすい存在だということを。
だが、使者はそのことを知らない。
「たしかに、この村の防衛力は高いでしょう。アガサ・デ・ベルクールもいますからね」
使者はアガサの方に目を向ける。
「相変わらず世辞が上手なようで」
アガサは微笑んで使者を見つめている。
どうやら、使者とアガサは知り合いのようだ。
だが、使者はまだアガサと話したがっているが、そんなわけにもいかないので、ルカの方を向き直す。
「この防御力があれば、大抵の人間はルカ様に触れることはできないでしょう」
「……人間は?」
その瞬間、お付きの表情が明らかに悪くなった。
お付きは慌てて使者を止めようとした。
だが、先に使者の口が開いた。
「ですが、悪魔に対応することはできないでしょう」
お付きの表情が絶望に染まる。
ルカには悪魔の話をしたことがない。
なので、ルカは悪魔を知らない。
「ルカ様!もう聞かなくていいです!戻りましょう!」
「……ルカ様!」
お付きは必死にルカと使者を引き離そうとした。
だが、ルカは動かない。
使者としっかり目を合わせて、真剣な顔をしている。
「詳しくお聞かせください」
「もちろんです」
使者も真剣な顔で、ルカを見据える。
「駄目です!ルカ様!」
お付きは必死に止めようとする。
ルカはお付きの方を向いて、目を細めて、お付きを睨んだ。
「僕は使者の話を聞くと言っています」
お付きはルカに威圧されて、口を閉ざした。
ルカは再び使者の方を向いて、微笑みを浮かべた。
「……それで、悪魔というのは?」
その時だった。
村の方から、爆発音と悲鳴が聞こえた。
この場にいる全員の顔が驚愕に染まる。
ルカは立ち上がって、窓に駆け寄る。
そこから見えたのは、空に浮かぶ黒い影と焦げて跡形もなくなった家だ。




