第六話 楽しくて嬉しくて
今、ルカは回復魔法について学ぶべく、座学の授業を受けている。
教えているのは、国内でも有名な回復魔法の使い手であるアガサ・デ・ベルクールという女性だ。
アガサは常に落ち着いていて、理知的で聡明な女性だ。
「まず、回復魔法を使うにあたって、大切な点が大きく二つほどあります。なんだと思いますか?」
アガサがそう問うと、ルカは顎に手を当てて、真剣に考え始める。
「……気持ち、でしょうか……?」
ルカが答えると、アガサは微笑んで頷く。
「ええ。外れてはいませんよ。回復魔法に必要なのは繊細な魔力操作と祈る気持ちです」
授業を受けているのはルカだけだが、後ろに控えているお付きたちも真剣に聞き、うんうんと頷いている。
「魔力操作はかなりの繊細さが求められますが、ルカ様はすでにご自身の魔力を制御するために魔力を丁寧に操作しているので、大丈夫でしょう」
自慢のルカが褒められて嬉しいのか、お付きたちがどんどん笑顔になっていく。
ルカはそれを見て苦笑している。
アガサは集中しすぎてそんなことには一切気づかず、説明を続ける。
「もう一つ大切なことがあって、それは気持ちです。対象者が治ってほしいと、心の底から願うことが大切なのです。ですが、もともとこの授業はルカ様が、皆様のために回復魔法を習得したいと言ったから始めたのです。なので大丈夫でしょう」
お付きたちが感銘を受けて、咽び泣きそうになっている。
「では今から簡単な魔力操作をやってから、さっそく回復魔法をやってみましょう」
「はい!」
ルカは無邪気な笑顔で、元気に返事をした。
アガサはルカに一本の短杖を手渡した。
杖がなくても魔法は使うことができるが、杖があったほうが魔力操作が幾分か楽になるのだ。
それから魔力操作などを繰り返して、ものの三時間で中級回復魔法を覚えた。
回復魔法は主に三種類に分類される。
下級回復魔法はちょっとした擦り傷程度しか治せないが、魔力消費量が少ないので便利だ。
中級回復魔法は骨折などの多少の大怪我なら治すことができるが、魔力消費量は下級回復魔法の倍になる。
上級回復魔法は瀕死の状態でも治すことができるが、魔力消費量が大きく、膨大な魔力と高度な技術力がなければ使うことができない。
ルカが覚えたのは中級回復魔法だが、普通の人がそれを一から学ぼうと思ったら、一か月から半年はかかるので、ルカはかなり優秀な部類だ。
お付きたちは、大はしゃぎでルカを褒めちぎっている。
ルカもどんどん魔法を使えるようになるのが嬉しいらしく、ずっと明るい笑みを浮かべている。
アガサも優秀なルカに魔法を教えるのが楽しいようだ。
「ルカ様本当にすごいですね。あっという間に中級回復魔法まで覚えてしまいました。このままいけば一か月もあれば上級回復魔法を習得することもできるかもしれません」
上級回復魔法を習得するのは、早くても三年はかかると言われている。
だが、アガサはルカは魔力量が膨大であるにも関わらず、魔力操作に長けているので不可能ではないと思ったのだろう。
「ありがとうございます!ベルクール先生」
ルカは無邪気にはしゃいでいる。
それをアガサとお付きたちは、保護者のような温かい目で見守っている。
だが、ようやく動き始めたルカの新しい生活は、近いうちに壊されることとなる。
不穏の影は、もうルカの足元に迫っているのだ。




