第四話 奇跡なんかじゃ
最近、皆の祈りが増えた。
昔からずっと祈られていたのだが、最近それがやたらと長くなっている。
ルカは疑問に思って、そばにいた人に聞いてみることにした。
「ねえ。最近、お祈り長くない?」
「ええ。そうなんです」
ルカは無邪気に首を傾げる。
「どうして?」
女の視線が少し下を向く。
「実は、最近森から出てくる魔物の数が、急に増えているんです」
「……そうなんだ。みんなに、気をつけてって伝えて」
「はい!もちろんです」
この村は、深い森に囲まれている。
そこには魔物がたくさんいるので、村の人々はあまり森に近づこうとしない。
だが、魔物の住処があるのは森の奥の方だ。
そのため、森はすぐそばにあるが、魔物が頻繁に村を襲ってくることはない。
それでも、スタンピードとまではいかなくても、魔物同士の縄張り争いなどで急に村に出てくる魔物の数が増えたりはする。
それで、村の人々はいつもより長くルカに祈りを捧げているのだ。
村に大きな被害が出ないように。
魔物の数が減るように。
祈ったって、状況が変わるわけでもないのに。
だが、ルカはこの村において、皆の心の支えになっている。
ルカは自分を縛り付けてくる村の人々が好きではないが、ルカなりにも皆を助けたいという思いは多少持っている。
少しくらいは、みんなの心配をしたりはする。
大精霊の器は、膨大な魔力を持っているので、それを操作できさえすれば、国ひとつ吹き飛ばすことなど造作もない。
だが、ルカは魔力の扱いに関してさほど学んだことはないし、そもそも周りの人間がそれを許さない。
そのため、ルカは自身の魔力が暴走しないようにするための魔力制御しかできない。
ルカならば、力を使うことで村に出てきた魔物をまとめて潰すことができるだろうが、それは許されない。
なので、ルカは皆の無事を祈ることしかできない。
あれから数日が経った。
今現在、村が緊張感に包まれている。
どうやら、村に大型の魔物が多数出現したらしい。
村の人々はルカを守るために多少は戦うことができるが、かといって、とても強いわけでもないので、強力な者に攻撃されれば対応は困難だ。
そして今回は、結論からいうと、大型の魔物の討伐には成功した。
だが、負傷者がかなり多い。負傷者は数十人いて、重傷者も少なくはないらしい。
その負傷者が、ルカの元に運ばれてきた。
だが、別にルカが負傷者を治すわけではない。
周りの者が回復魔法をかけるだけだ。
ルカのもとで治すことで加護のようなものが得られるとでも思っているのだろう。
負傷者はどんどん回復していき、やがて全員がほとんど回復した。
「ありがとうございます!」
「ルカ様のおかげです!」
別にルカは何もしていないのだが、皆そう言う。
いつものルカならこれに対して吐き気を覚えているのだろうが、今のルカはいつもと違った。
(僕もみんなを守れたらいいのに)
ルカは一瞬そう思った。
あれから数日後、村に魔物が出ることがなくなった。
恐らく、魔物たちは大型魔物に怯えて、村に逃げてきていたのだろう。だが、その魔物を倒したことによって逃げる必要がなくなった。
そして、村の人々はこう言った。
「ルカ様のおかげです!」
「まさに奇跡です!」
「ルカ様!ありがとうございます!」
別にルカは何もしていない。
ルカは苦笑しながら、あきれていた。




