第四話 運命の別れ道
とある森の奥深く。
もう夜は深いというのに、石造りの古い建物の中で、黒い外套を纏った一五人ほどの人間が、円卓を囲っていた。
その中で金の刺繍が入った外套を纏ったリーダーの男が低い声で話し出す。
「水の大精霊ネレイスの器、レヴェリア・エリア・エーヴェルヴァイン。こいつが我らクロノスから逃げ、早一二年。いい加減こいつを取り戻さねばならん」
幹部らしき人物が恭しい態度で、答える。
「おっしゃる通りです。しかし、今現在、三体の悪魔が器を護っています。奪還はかなり難しいかと」
「それでもやらなければならない。大精霊の力を我らのものにするためには」
皆が下を向いて沈黙している中、別の幹部の男が顔を上げた。
「私に一つ作戦があります」
「言ってみろ」
「器の魔力が不安定な時に、クロノス戦闘部隊全員で屋敷を襲撃し、あの悪魔どもが器の魔力を調律する時間をなくします。不安定な器にさらに魔力による衝撃を与え、暴走状態へ追い込むのです」
部屋がざわつく。
皆が口々に意見を述べる。
「それでも悪魔は三体もいるぞ!敵わないだろう」
「万が一、器が壊れたらどうする」
「今までの作戦のなかで一番可能性が高いんじゃないのか」
「上手く悪魔を分散させれば勝機はあるだろう」
「悪くはないと思いますわ」
リーダーが声を上げる。
「その作戦で行こう。使えるものはすべて使え。細かい作戦は追って通達する。総員、直ちに準備に取りかかれ!!」
「「「御意!」」」
全員が立ち上がり、次々と部屋から出ていく。
そんな中、リーダーは一人で笑った。
「待っていろ、器。再び地獄に戻してやる」
その頃の屋敷は、完全に静まり返っていた。
ルーカスは自室で一人で黙々と事務作業をして、ルクはレヴェリアの腕の中で喉を低く震わせて眠っている。
レヴェリアは昔の記憶が夢に出てきているのか、顔をしかめて、うなされている。
アルセーヌはそんなレヴェリアに冷たく甘い視線を向けながら、彼女の髪を撫でる。
「苦しいですか、お嬢様。今すぐ、その苦しみから解き放ってあげましょうか。……ですが、少々ルクが邪魔ですね。この方に手を出せば一瞬で起きてしまうでしょう。何かが動いている気配がします。それまで、我慢するとしましょう」
アルセーヌは不気味な笑みを浮かべた。
太陽が昇って、それなりに時間が経った頃、レヴェリアは目を覚ました。
アルセーヌがいつものようにそばに立っていて、ルクは自分の腕の中で眠っている。
「お目覚めですか、お嬢様」
「ええ」
今日は機嫌が悪い日なのだろうか。いつもに増して返事が淡々としている。
だが、アルセーヌはそんなことは気にしない。
「随分と遅い起床ですね。疲れていましたか?」
「いいえ、そんなことはないわ。ただ、起きたくなかっただけ」
「理由をお伺いしても?」
「無理」
「承知いたしました」
レヴェリアが少し悲しい顔をしながら起き上がった。
その瞬間扉からルーカスが入ってくる。
「おはようございます、お嬢様」
いつも通りの穏やかな笑顔で、レヴェリアに一礼をする。
彼は、レヴェリアを一目見て気づいた。
(今日のお嬢様はご機嫌ななめのようですね。今日はとびきり甘いケーキでも作ってあげましょうか)
そんな事を考えていたら、レヴェリアがもう一度寝台に寝転がった。
「もう一回寝る」
アルセーヌがレヴェリアに布団をかけながら、呆れた口調で話しかける。
「あと二十分だけですよ。睡眠を取ることは良いことですが、寝すぎも体調不良の原因になります」
レヴェリアからの返事はない。どうやら、今日は相当機嫌が悪いらしい。
ルクの毛に顔を埋めて、びくともしない。
そんなレヴェリアを見つめながら、ルーカスはケーキ作りの計画を考え始めた。
運命が変わるときは近いというのに。
いや、変わるのではない。最初から、そうなる運命だったのかもしれない。




