第二話 奇妙な日常
ルカの一日はとても長い。
かといって、特に何かをするわけでもない。
一日中、人々に向かって、無理矢理作った笑顔を振りまくだけだ。
今日もそれらを終え、ルカは寝台に寝転がっていた。
まだ寝るには少し早い時間だが、とにかく疲れたのだ。
ルカは人々の前に出ていないときでも、常に誰かに見張られている。
だから、ルカは見張りの人が一瞬目を逸らした隙に、枕に顔を埋めて呟く。
「やだなぁ、こんなの」
呟く必要があるわけではないが、呟かずにはいられない。
見張りの人が首を傾げて、ルカを見つめる。
「どうかしましたか?ルカ様」
「ううん。なんでもない」
ルカは何もないふりを続けないといけない。
そうしないと、悲しむ人がいる。
そうしないと、生きていけない人がいる。
そうしないと、怒られてしまう。
(……あぁ、本当にいやだなぁ)
大精霊の器は、何かと狙われやすい。
それはルカだって例外ではない。
穏やかなはずだった昼間、村に警鐘が鳴り響いた。
襲撃者を知らせるものだ。
警鐘が鳴ると、明るい人々の顔が一気に険しくなり、全員が武器を取り始める。
今回の襲撃者は、大精霊の器を殺そうという人間の集まりだ。十数人くらいの魔法使いや戦士が集まっているようで、前より増えたとはいえまだまだ人口の少ないこの村では、対処は大変だろう。
だが、そんなことはなかった。
人々はルカを信仰することで、自分の持つ力を何倍にも引き上げているのだ。
その様子をルカは建物から、見つめるだけだ。
後ろから、見張りの女がルカに不安そうな口調で話しかける。
「ルカ様、大丈夫ですよ。すぐに終わります」
どうやらこの女は、ルカが襲撃者に対して恐れを抱いていると思っているらしい。
だが、ルカは襲撃者に対して、怖いと思ったことはない。
どうせ、みんなが僕を護るために倒すんだ、そう思っている。
「みんなならすぐに倒せるだろうね」
ルカは皮肉を込めたつもりで言った。
だが、女の表情はぱあっと明るくなった。
「お褒めに預かり、光栄です!皆に伝えておきますね!」
どうやらルカの思いは何も伝わっていなかったようだ。
いつだってそうだ。
何を言ったって、みんな勝手に自分の都合に合わせて解釈する。
つくづく反吐が出そうだ。
そんなつまらないことを考えているうちにも、襲撃者はみるみる減っていく。
大した魔法も使えないくせに、魔法使いと対等に渡り合っている。剣を習ったことがあるわけでもないのに、戦士を倒している。
やがて、襲撃者が全員倒れた。
人々は嬉々として、ルカのもとに戻ってくる。
「ルカ様、ご安心を!」
「お怪我はありませんか?ルカ様!」
「もう悪い奴らはいませんよ!ルカ様!」
ルカは暴れたくなったが、なんとか抑え込んで、みんなに向かって微笑んだ。
「みなさん。僕のために、ありがとうございます」
そう言うと、みんながさらに笑顔になる。
ルカは誰にも見えないように、後ろを向いて、ため息をついた。
「……僕のためじゃないくせに」
ルカは孤独に泣きそうになった。
でも、ルカが泣けば周りの人間が困るのだろう。
でも、ルカはこう思わずにはいられない。
……いつまで、この遊びを続けるの?




