第七話 予想外
今日は中庭の訓練場に、騎士が全員集められている。
今から、新人騎士たちの配属部隊が発表される。
前方にエリーナ・クリス・クロムウェル団長が現れた。
「今から、部隊発表を行う。呼ばれた者は、各部隊の列に並ぶように。アーサー・クレイン、第二部隊。リリー・フロスト、第四部隊」
次々と、皆の名前が呼ばれていく。
コリンは周りの人の名前や顔を、しっかり記憶に叩き込んでいる。
マルクはまるで大型犬のように、目をキラキラとさせている。
アイラは冷静を装っているが、内心はかなりワクワクしている。
そして、名前が呼ばれる。
「アイラ・ヴァンス、第一部隊。コリン・スタイナー、第一部隊。以上だ」
ーーマルクを除いて。
マルクの顔が、不安に染まる。
コリンとアイラもマルクを気にかけながらも、第一部隊のほうへ移動する。
そのことに気づいたエリーナが、マルクのほうに近づいて、小声で話しかける。
「君はあとで、私の部屋に来てくれ。話がある」
「……は、はひっ!」
マルクは緊張と驚きで、声が裏返ってしまう。
そんなマルクを見守りながら、コリンとアイラは先輩騎士に連れられて、移動を開始した。
騎士団長室にある大きな書斎机の向こうに、エリーナ団長が構えている。
エリーナは美しく、凛としているが、それでも目力が強く、威圧感はしっかりとある。
騎士団長の名は、伊達ではない。
そんなエリーナに呼び出された、マルクはエリーナの前でビクビク震えていた。
怒られるのではないか、と怯えているのだ。
エリーナは目を細め、マルクを観察しながら、重い口を開く。
「率直に問う。なぜ呼び出されたのか、心当たりはあるか?」
「あ、ありません」
マルクが答えると、エリーナの眉間にシワが刻まれた。
マルクの震えが、激しくなる。
「……あ、あの……なんで呼び出されたの、でしょう……?」
エリーナはマルクが本当に心当たりがないと確信したのか、表情が幾分か柔らかくなる。
「とりあえず、そこに座れ」
「は、はい!」
マルクは目の前のソファーに座ると、エリーナもマルクの向かい側に座った。
その時、コンコンと扉がノックされた。
「入れ」
入ってきたのは、第一部隊隊長ガストン・ハルバードだ。
「失礼します。エリーナ団長」
「お前も座れ」
「はい」
ガストンはエリーナの隣に、どっしりと腰を下ろす。
エリーナは目の前の長机に、一枚の紙を置いた。
マルクはそれに目を通す。
昨日の水晶を触れた時の、結果らしい。
あの水晶は、主にその人の性格や得意な戦法、魔力の波形などがわかる。
マルクはそれらに関しては、問題はない。
ただ、魔力量が異常だ。
「これって本当に、俺のやつですか?」
「ああ。魔力量が桁違いだ。何か心当たりはないのか?」
「小さい頃、魔力暴走を起こしてしまって、建物をぶっ飛ばしたことはあります」
その言葉を聞いて、エリーナは深くため息をついた。
マルクはビクビクしている。
魔力暴走とは、自身の魔力を制御できず、誤って放出してしまい、外部に何かしらの影響を与えることを指している。
「今から言うことは、他言無用だ。これは命令だ」
「はい!」
マルクが表情を引き締め、背筋を伸ばす。
「お前は大精霊の器の可能性がある」
「……へ?」
「お前自体に害意はないと、思っているが、騎士団で何か事故があっても困る。なので、お前を一度、王城に送る」
「えっ。ということは、俺は騎士になれないということですか?」
エリーナが首を横に振る。
「王城で詳しく調べた後、騎士団にいても大丈夫と判断された場合は、お前には第一部隊に入ってもらう。だから、安心しろ」
「ありがとうございます!」
マルクの表情が、いつもの笑顔に戻った。
「それから、これからはしばらく、ガストンをお前に監視役として付ける。何かあったら、こいつに頼るといい。こいつは私の右腕だ。十分信用できる」
「よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。マルク君」
その声は、低く落ち着いており、不思議と安心感があった。
エリーナは二人を温かく見つめている。
「一度、寮に戻り、荷物をまとめろ。一時間後にそちらに向かう。それで共に王城へ向かうぞ」
「はい!」
マルクは寮に戻り、荷物をまとめている。
コリンはそれを見つめながら、首を傾げている。
「口外を禁じられたなら、無理に聞くつもりはないけど、君何やったの?謹慎処分になるなんて」
「ちげぇよ!」
「うそうそ。君が何やったかは知らないけど、頑張ってね」
「おう!」
「元気そうだから、悪い話じゃなさそうだね」
その時、エリーナが扉をノックして、部屋に入ってくる。
「準備はできているな」
エリーナがしばらくマルクを見つめたあと、コリンに視線を移す。
「お前はたしか、コリンと言ったな。こいつと同じ学校だったか」
「はい。マルクと僕は同じイグニス学校の出身です」
エリーナはしばらく、考え込んで、何か閃いたように顔を上げた。
「コリン。お前も荷物をまとめろ。お前も王城に連れて行く。詳細は後ほど説明する」
エリーナはコリンからも、何か情報が得られるかもしれないと思ったのだ。
部屋にしばらく沈黙が流れる。
「は、はい。わ、かり、ました……?」
普段は冷静なコリンが、動揺している。
かくして、マルクとコリンは騎士団での厳しい訓練が始まるかと思いきや、予想外な事態になってしまった。




