第十二話 袂を分かちて
アウレリアンがクロウに視線を向けた。
クロウもアウレリアンを見つめながら、軽く頷いた瞬間、クロウは恐ろしい速さで動いた。クロウは瞬きのような速さで動いた。
気づいた時には、レオンの背後に回り、アーノルド伯爵令息の首を斬り落としていた。
そして何事もなかったかのように、アウレリアンの横へ戻る。
レオンは自分が殺せなかった子供が殺されたことに対しては、何も思わなかった。
だが、クロウに対しては、驚愕を覚えた。
半年ほど前、共に仕事をした時よりも格段と動きが速くなっている。
他のメンバーの技量も、上がっているかもしれない。
これから、そいつらを全員殺さなければいけない。
だが、恐怖は湧いてこない。
ただ単に、計算をしている。
どのように戦えば勝てるのかを。
アウレリアンはいつも通り、低く重く、抑揚のない口調で、言い放った。
「お前の大精霊の魔力は便利だった。失望したぞ、レオン」
その瞬間、全員が動いた。
サイラスが腰から下げていた剣を引き抜き、剣身に魔力を帯びさせ、レオンに斬り掛かった。
レオンはそれを回避し、風を発生させ、サイラスを下がらせる。
だが、すぐさま再び斬り掛かってくる。
やはり、さすがサイラスだ。
レオンを教育したのは、サイラスだ。
レオンがどう動くかを、理解している。
「残念ね、レオン。もっと仲良くなれると思っていたのだけど」
「そうですか」
サイラスに反撃するのは、骨が折れるだろう。
レオンはサイラスを風で遠ざけ、回避に専念する。
その時、後ろからクロウが短剣で斬り掛かってきた。
「…………」
クロウはやはり、動きが速い。
だが、クロウが相手にしているのは風の大精霊ゼフィールの器だ。
レオンの速さには、クロウでは勝てない。
レオンはクロウの背後に周り、風を槍の形にして、クロウの背中に突き刺す。
まずは、一人。
クロウの背中から、血が噴き出す。
「クロウちゃん!!」
サイラスが倒れるクロウを受け止めるように、動く。
その隙を、レオンは見逃さない。
レオンはサイラスの首を目掛けて、風の刃を放った。
だが、その風がサイラスに届く前に、闇に掻き消される。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
「忘れてない」
レオンの風の刃と、エレボスの闇の刃が打ち合う。
魔法同士では少し、戦いづらい。
レオンはエレボスの始末を後回しにすることにした。
レオンは一旦後ろに下がり、体勢を整えようとした。
だが、そこに鋭い魔力の塊が飛んでくる。
「……殺す」
ヌルが冷たく吐き捨てるように言う。
「おっかないな」
そんなことを呟くように言っていたら、視界が揺れた。
「ねえ、辛い?」
たしかに戦いづらくなったが、それだけだ。
レオンは部屋中に、弱い風を発生させた。その風を読めば、誰がどこにいるか、簡単にわかる。
レオンの右後ろの風が、微かに揺れた。
そこに向かって、レオンは風の刃を放った。
その瞬間、ヌルの肩に刃が食い込んで、ヌルは地に膝をついた。
二人目。
だが、クロウもヌルも本来は、戦闘が専門ではない。
多少手強いが、勝てないわけではない。
残っている三人の方が、ずっと手強い。
レオンは身構えた。
サイラスとエレボス、そしてアウレリアン。
三人は、かつて居場所だった。
三人は、今は敵だ。
恐怖はない。
怒りもない。
レオンは理解していた。
ここで勝たなければ、自分は終わる。
だからーー勝つ。
それが、夜から離れるための、唯一の方法だった。




