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大精霊の器が辿った道  作者: 安達りあ
風の殺し屋編
20/21

第九話 風出し

 レオンは、自分が殺した男なんて、一瞥もくれず、エリオットとカーラの元に駆け寄った。

 今は大雨でとても寒いというのに、二人から流れてくる血は温かい。

 そのことにレオンは、吐き気が込み上げてきた。

 レオンは比較的頭の回る子供だ。

 もう、エリオットとカーラを助けることができない。

 レオンは、それを簡単に理解できてしまう自分を、憎んだ。

 だから、ただレオンは泣いた。

 一か八かで止血に挑んでみることも、近くの家の人に助けを求めることも、衛兵を呼ぶこともしない。

 ただただ、泣きじゃくった。

 その泣き声も、雨の音と風の音にかき消されて、聞こえない。

 その時、目の前に黒い外套を纏った男が現れた。

 レオンは、こいつも自分を殺すのかという絶望と、もしかしたら助けてくれるのかもしれないという希望を、半々に抱いた。

 だが、男の行動は、レオンの想像とは大きく異なった。

「さすがは大精霊の器だ。魔法の使い方も知らないであろう子供が、大男をズタズタに切り裂いた」

 レオンは男が何を言っているのか、理解できなかった。

「なんだよ。お前」

 レオンは涙を拭いながら、男を睨みつける。

「お前、俺と一緒に来い」

「……はぁ?」

 レオンは、ますます理解できなくなった。

 だが、思考を加速させる。

 この男には、ただならぬ気配を感じたからだ。

(……こいつ、俺を助けるつもりなのか?ただの孤児を助けて何になるんだ?まさか、こいつ……)

 レオンは一つの結論に至った。

「……さてはおっさん、俺を助けるふりして、お貴族様に俺を売り飛ばす魂胆か。その手には乗らないぜ」

 この手の話は、レオンもよく聞いていた。

「違うわ」

 レオンの頭に、拳が振り下ろされた。

 どうやら、違ってたみたいだ。

 レオンはだんだん苛立ち始めてきた。

「だったらなんで俺を連れて行くんだよ、おっさん」

 レオンはひたすら男を睨みつける。

「そろそろそのおっさん呼びをやめてくれないか?まあ、いい。お前を連れて行くのにはわけがある」

「んだよ」

「お前は大精霊の器だ」

「あぁん?んだよそれ。殺すぞ」

 レオンは拳を握りしめて、構えた。

「詳しく知りたいなら、俺について来い。ただし、そこに転がっている子供は連れて行かないぞ」

 男は目線をエリオットとカーラに向けた。

 それに気づいたレオンも、エリオットとカーラを見る。

 二人はもう確実に助からないだろう。

 結論は意外と、あっさり出せた。

「そこまで言うならついて行ってやる、おっさん」

「決まりだな」

 男がレオンに、手を差し出す。

「俺なんかに触れたら汚れるぜ」

「構わん。この手も、それほど綺麗ではない」

「そうかよ」

 レオンは男の手を、力いっぱい握りしめ、精一杯男を睨みつけた。

「じゃあ行くぞ」

「おう」

 男が歩き始めたので、レオンも後ろについて行く。

 レオンは正直戸惑っていて、質問したいことばかりだ。まず何から聞いたものか。

 そんなことを考えていたら、男が振り向きもせず、話しかけてきた。

「お前、名は?」

「本名はわかんねぇけど、あいつらからはレオンって呼ばれてたから、レオンだ。」

「そうか。良い名だな。」

「そりゃどうも」

「俺はアウレリアンだ」

「そうかよ、おっさん」

「……」

 二人は歩きながら、絶妙に噛み合わないと分かっていても、話を続けた。

 これが、エリオットとカーラという過去とレオンの別れだ。

 これが、ノクターンのトップであるアウレリアンとレオンの出会いだ。

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