第九話 風出し
レオンは、自分が殺した男なんて、一瞥もくれず、エリオットとカーラの元に駆け寄った。
今は大雨でとても寒いというのに、二人から流れてくる血は温かい。
そのことにレオンは、吐き気が込み上げてきた。
レオンは比較的頭の回る子供だ。
もう、エリオットとカーラを助けることができない。
レオンは、それを簡単に理解できてしまう自分を、憎んだ。
だから、ただレオンは泣いた。
一か八かで止血に挑んでみることも、近くの家の人に助けを求めることも、衛兵を呼ぶこともしない。
ただただ、泣きじゃくった。
その泣き声も、雨の音と風の音にかき消されて、聞こえない。
その時、目の前に黒い外套を纏った男が現れた。
レオンは、こいつも自分を殺すのかという絶望と、もしかしたら助けてくれるのかもしれないという希望を、半々に抱いた。
だが、男の行動は、レオンの想像とは大きく異なった。
「さすがは大精霊の器だ。魔法の使い方も知らないであろう子供が、大男をズタズタに切り裂いた」
レオンは男が何を言っているのか、理解できなかった。
「なんだよ。お前」
レオンは涙を拭いながら、男を睨みつける。
「お前、俺と一緒に来い」
「……はぁ?」
レオンは、ますます理解できなくなった。
だが、思考を加速させる。
この男には、ただならぬ気配を感じたからだ。
(……こいつ、俺を助けるつもりなのか?ただの孤児を助けて何になるんだ?まさか、こいつ……)
レオンは一つの結論に至った。
「……さてはおっさん、俺を助けるふりして、お貴族様に俺を売り飛ばす魂胆か。その手には乗らないぜ」
この手の話は、レオンもよく聞いていた。
「違うわ」
レオンの頭に、拳が振り下ろされた。
どうやら、違ってたみたいだ。
レオンはだんだん苛立ち始めてきた。
「だったらなんで俺を連れて行くんだよ、おっさん」
レオンはひたすら男を睨みつける。
「そろそろそのおっさん呼びをやめてくれないか?まあ、いい。お前を連れて行くのにはわけがある」
「んだよ」
「お前は大精霊の器だ」
「あぁん?んだよそれ。殺すぞ」
レオンは拳を握りしめて、構えた。
「詳しく知りたいなら、俺について来い。ただし、そこに転がっている子供は連れて行かないぞ」
男は目線をエリオットとカーラに向けた。
それに気づいたレオンも、エリオットとカーラを見る。
二人はもう確実に助からないだろう。
結論は意外と、あっさり出せた。
「そこまで言うならついて行ってやる、おっさん」
「決まりだな」
男がレオンに、手を差し出す。
「俺なんかに触れたら汚れるぜ」
「構わん。この手も、それほど綺麗ではない」
「そうかよ」
レオンは男の手を、力いっぱい握りしめ、精一杯男を睨みつけた。
「じゃあ行くぞ」
「おう」
男が歩き始めたので、レオンも後ろについて行く。
レオンは正直戸惑っていて、質問したいことばかりだ。まず何から聞いたものか。
そんなことを考えていたら、男が振り向きもせず、話しかけてきた。
「お前、名は?」
「本名はわかんねぇけど、あいつらからはレオンって呼ばれてたから、レオンだ。」
「そうか。良い名だな。」
「そりゃどうも」
「俺はアウレリアンだ」
「そうかよ、おっさん」
「……」
二人は歩きながら、絶妙に噛み合わないと分かっていても、話を続けた。
これが、エリオットとカーラという過去とレオンの別れだ。
これが、ノクターンのトップであるアウレリアンとレオンの出会いだ。




