第八話 路地裏の仲間と
レオンはただ淡々と、部屋にいる使用人を殺していった。
血の匂いも、悲鳴も、レオンにとってはただの背景だった。
あっという間に部屋にいた使用人たちは、全員、息を失った。
レオンはアーノルド伯爵夫人の首を飛ばした。
すぐに、アーノルド伯爵の首も飛ばした。
残すはアーノルド伯爵令息のみ。
レオンは部屋の端で震えている子供に、目を向けた。
(……よし、これで終わりか)
レオンは手を前に出して、さっきまでと同じように風を発生させようと、手に魔力を集中させた。
だが、風は吹かない。
手が震えているだけだ。
(……え?)
急にレオンの脳裏にとある記憶がよぎった。
ーー似ているんだ。
◇◆◇
レオンは気づいた時には、路地裏で暮らしていた。
親も知らない。
自分の年齢も知らない。
なぜ自分がここにいるのかすら、あまり覚えていない。
だから、レオンは自分は親に捨てられたと思っている。
路地裏には仲間がいた。
レオンよりは恐らく年上の優しいエリオットと、レオンよりは恐らく年下の気弱なカーラだ。
レオンはエリオットを実の兄のように、慕っていた。
名前も分からなかったレオンに名前をつけてくれたのも、露店の食べ物をこっそり盗む方法も教えてくれたのも、エリオットだ。
レオンはカーラを実の妹のように可愛がっていた。
レオンは、おしゃれをしたがっているカーラの髪を結ってあげたり、自分の分の食べ物を分けてあげたりした。
三人は本当に兄弟みたいだった。
三人とも、兄弟以外は必要なかった。
温かいご飯も、雨風を凌げる家も、綺麗な服も、そんなものなくたって三人ならなんとかなっていた。
エリオットはよく、笑顔で夢を語っていた。
「俺はいつか、たーっくさん仕事をして、たーっくさんお金をもらって、レオンとカーラが贅沢な生活をできるようにするんだ!」
そんな話を聞いて、カーラは楽しそうに喜んだ。
「じゃあ何でもできるようになるの?」
「ああ!もちろんさ!」
そんな二人を見て、レオンも嬉しくなった。
「エリオット、カーラ。いつまでも一緒に生きよう」
「「うん!!」」
苦しいこともたくさんあったけれど、本当に楽しい日々だった。
三人でいれば、なんだってできる。
そう信じていた。
今日は雨が降っていた。
大降りの雨で、風も激しく吹き荒れていた。
三人は体温が下がらないように、身を寄せ合って、黴の生えたパンを食べていた。
「寒いね。兄ちゃん」
「大丈夫だ。ほら、もっとくっついて。そうしたら寒くないだろ?レオンもそう思うだろ?」
「うん。寒くないよ」
「あったかくなってきた!」
「それは良かった」
雨が止んだら、いつも通りの生活に戻れると思っていた。
だが、それは叶わない。
三人の目の前に、大柄な男が現れた。
三人はその顔を知っている。
近くの露店で、肉の串焼きを売っている人で、いつもそこで美味しい串焼きを盗っていた。
エリオットとレオンは、怒られるかもと思って身構えた。
だが、男は怒鳴り声はあげずに、三人を見ている。
もしかしたら、助けてくれるのかもしれない、なんて一瞬夢を見た。
男は背中に隠していたナイフを振り上げ、カーラを目掛けて振り下ろした。
カーラは倒れ込んで、動かない。頭から大量の血が流れている。
エリオットもレオンも、この状況を瞬時に理解できなかった。
その間に、男はもう一度ナイフを振り上げ、今度はエリオットを目掛けて振り下ろした。
エリオットもカーラと同じように、動かなくなった。
血がどんどん広がっていく。
その時、レオンは何も考えていなかった。
怒りと一緒に、自分の周りに風が逆巻いて、その風が男をズタズタに切り裂いていた。
レオンは魔法なんて使ったことがなかった。存在は知っているが、見たことなんてなかった。
そんな子供が魔法なんて使えるはずがなかった。
だが、レオンは違ったみたいだ。
彼は、風の大精霊ゼフィールの器だ。




