第七話 沈黙の淵から
今、ノクターンは全員、アーノルド伯爵邸の周辺に身を潜めている。
アーノルド伯爵邸の裏側の森にアウレリアンとサイラス、邸の屋根の上にクロウとヌルが、左側にある森にレオンとエレボスが待機している。
今夜は、夜らしい冷たい風が吹いており、レオンの黒い外套がなびいている。
全員、開始の時間を待っており、過ごし方は様々だ。
「もうそろそろですね。アウレリアン」
「ああ」
「帰ったらシチュー作りますね」
「それは楽しみだ」
アウレリアンとサイラスは、仲良くおしゃべりをしている。
「…………」
「…………」
クロウとヌルは、二人ともあまり積極的に口を開くことはない。
「うわ、かってぇ。お前も食うか?」
「じゃあその小さいの」
「ほらよ」
レオンとエレボスは、干し肉を食べて、英気を養っている。
それから十五分ほど経った頃だろうか。
アーノルド伯爵邸の鐘が、夜の空に響いた。
六時を知らせる鐘だ。
それと同時に、ノクターンは動き出した。
まず初めに動いたのはエレボスだ。
エレボスが敷地内に侵入し、闇魔法を展開した。大広間に集まっている、アーノルド伯爵を始め、アーノルド伯爵夫人、アーノルド伯爵令息、使用人全員に、幻覚の魔法をかける。大広間にいた人々は、外の様子が見えなくなる。
この時点では、まだ誰も異常に気づいていない。
それと同時に、アウレリアンとサイラスが魔法で空を飛び、全体の様子を確認する。
レオンが一歩踏み出すと同時に、風が唸り、正面玄関の警備兵の首が消し飛んだ。
門にいた警備兵がそれを見て、悲鳴を上げる。
エレボスが大広間にいる人間に、魔法をかけ、外の悲鳴が聞こえないようにする。
レオンが風に乗って、門の警備兵のもとに、一瞬で移動し、その警備兵の首も風で消し飛ばす。
ヌルがすぐさま警備兵を見えない場所に移動させ、地面の血痕を魔法で綺麗に消す。
そこに何かが起こった気配は、もうない。
直後にヌルが、人身売買の証拠を回収するために、屋敷内へ侵入する。
レオンも大広間へ向かおうとした。
だが、その瞬間、全員の脳にクロウの声が響いた。
「警備が二人、部屋から出て、正面玄関方面に向かってる……」
全員の顔が少し強張った。
だが、ノクターンがその程度で揺らぐことはない。
今度は、脳にアウレリアンの声が響いた。
「エレボス、部屋から出た人間を部屋へ戻せ」
「うーっす」
エレボスが部屋から出た警備兵二人に闇魔法をかけ、視界の前後を逆転させ、視界は正面玄関に向かっているが、身体は大広間へ戻るように仕向けた。
警備兵二人は自然に、大広間へ戻って行く。
クロウがその様子を、遠隔で確認する。
「ちゃんと、戻った。……けど、はやくしないと、不審がられるかもよ」
レオンもそれには同意だ。
レオンは小走りで大広間へ向かう。
扉の前で一旦止まり、自身の魔力の出力を上げた。
レオンは今から、この部屋の中にいる人間を殺す。
だが、緊張はしていない。
レオンは扉を開く。
「だ、誰だっ!?」
使用人の一人が声を上げる。
だが、レオンは躊躇いなく、風で首を飛ばす。
血が噴き出し、レオンに飛び散っているが、血の温度に何も思わない。
悲鳴が上がるが、そんなものは『音』としてしか認識していない。
一人、また一人と殺していく。
そう、レオンには死と恐怖に対する感情が欠落している。




