第六話 死神との舞踏
今日はアーノルド伯爵邸の人間を掃討する日だ。
全員が居間に集まり、朝から情報を再確認したり、道具を手入れしたりしている。
みんなが黙々と作業をしている中、サイラスが笑いながら声を上げた。
「やっぱりエレボス似合ってない」
「うっせぇよ!!」
今日は全員が、同じ黒い外套を身にまとっている。
だが、エレボスはノクターンの中でも一番大柄なので、どうしても野暮ったく見えてしまう。
本人もそれを気にしているらしく、サイラスにからかわれている。
「てか、俺より少し小さいとはいえアウレリアンさんも俺と体型は大差ないっすよね!?なんでアウレリアンさんは似合ってるんすか!?」
エレボスはついに八つ当たりを始めたようだ。
だが、常に冷静を心がけているアウレリアンは、エレボスを一瞥してから、鼻で笑うように口を開く。
「俺はお前と違って顔が良いからな」
一瞬、エレボスの動きが、ピタッと止まる。
エレボスが全力でアウレリアンを睨む。
「なんすか。喧嘩売ってるんですか?喧嘩なら買いますけど?」
アウレリアンは悪びれもせず、口角を上げる。
「喧嘩じゃない。事実だ」
エレボスは怒るかと思いきや、膝から崩れ落ち、その場でうずくまった。
「……ひぃん……わかってますよ。……どうせ、俺じゃアウレリアンにに勝てないです……。でも、そんなに俺をいじめて楽しいですか…」
「……アウレリアン様の方がかっこいいのは、当たり前……」
クロウが冷たく吐き捨てるように言い、エレボスを蹴り飛ばした。
「ぎゃっっ!!ひどっっ!!」
クロウはエレボスの悲鳴を無視して、足元に置いていた荷物を肩にかけた。
それと同時に、ソファに並んで座っていたサイラスとヌルも、荷物を持って立ち上がった。
「では、先行組行ってきますね。アウレリアン」
「ああ。俺たちもすぐに行く」
短い会話のあと、サイラスとヌルとクロウは静かに拠点から出て行った。
これで部屋に残っているのは、アウレリアンとエレボスとレオンの三人のみだ。
しばらく、誰も口を開くことはなかった。
その沈黙を破ったのは、やはり、エレボスだ。
「なんか、このメンバーだけじゃ華がないっすよね」
「花なら飾ってあるぞ」
レオンが棚の上の、花瓶を指さす。
「……そうだな。くそ」
エレボスが悔しそうに、目線を下に逸らす。
そんなエレボスのことを気にも留めずに、レオンがふと思い出したように、アウレリアンに問いかける。
「そういえば今回の依頼主って誰なんですか?」
「グレゴリーだ」
「ああ、そうなんですね」
グレゴリーとは、よくノクターンに殺しを依頼してくる人物で、アウレリアンと付き合いが長い。少し癖のある人物で、今回のような大掛かりな案件を持ってくることが多い。
正直に言ってレオンは、大掛かりな案件が嫌いなので、それを持ってくるグレゴリーが嫌いだ。
そんなことを考えていたら、アウレリアンが立ち上がった。
「俺たちもそろそろだな」
エレボスとレオンも立ち上がる。
レオンは心を引き締めた。
失敗は許されない。
三人は並んで、外へ出る。
外は完全な夜ではないが、闇が満ち始めていた。
そこには、冷たい風が吹いている。
いよいよ、始まった。
死神との舞踏会が。




