第四話 黒い鴉
レオンが居間に行くと、そこにはエレボスとアウレリアンがいた。
「クロウとサイラスさんはいないのか。珍しいな」
アウレリアンがいつもここにいるので、それに伴ってアウレリアンを慕っているクロウはよく居間にいる。
サイラスもアウレリアンに近い存在で、ノクターンの中では全員の様子を見て日程を調節する母のような立ち位置なので、居間にいることが多い。
「情報収集しに行ったぜ。サイラスはその手伝い。アーノルド伯爵邸っつったらかなり広いからな。一人じゃ大変だろ」
「ああ、そうか。いつ帰ってくるんだ?」
レオンとしても、より確実に実行するため、情報はなるべく早く欲しい。だから、気になったのだ。
エレボスがしばらく考えたあと、自信なさげに口を開く。
「うーん。……わかんねぇけど、一週間後くらいには帰ってくんじゃね?」
「そうか」
今回のような大掛かりな案件の情報収集は、並の殺し屋だったら、数週間から一か月はかかる。だが、クロウはとても優秀だ。だから、広大なアーノルド伯爵邸でも情報収集を一週間で終わらせることができてしまうのだ。
レオンもクロウの技術は、純粋に尊敬している。
そんなことを考えていたら、エレボスがアウレリアンに話しかけ始めた。
「そういえば、クロウってなんかすんごいアウレリアンさんにだけ懐いてるよな。俺らは目すら合わせてもらえねぇのに。なんでなんすか」
レオンもそれは思ったことがある。
クロウはまったくと言っていいほど人の話を聞かないが、アウレリアンの話だけは素直に受け入れる。
サイラスの話も多少は聞くが、クロウの教育をしたのはサイラスなので、サイラスにも多少は心を寄せているのだろう。
だが、アウレリアンは別格だ。
エレボスもレオンもアウレリアンの返答が予測できず、身構えている。
その時、アウレリアンがほんの少しだけ微笑んだ。
「俺も知らん」
部屋に張り詰められていた緊張の糸が、燃やされたようだ。
「マジっすか」
レオンは顎に手を当てて、今までのアウレリアンとクロウの様子を必死に思い出して、分析する。
「クロウもたしかにアウレリアン様に懐いてますけど、なんというか、アウレリアン様もお父さんって感じですよね」
「……っえ?」
エレボスが困惑している。
「ほら、例えば……アウレリアン様すぐにクロウを膝に乗せて撫でるじゃないですか。クロウにお菓子あげたりもしてますし」
「おお!たしかに!」
エレボスは納得したようだ。
一方で、アウレリアンはなぜか照れている。
「たしかにクロウは可愛いからな」
「それ親バカってやつじゃないすか」
その直後、アウレリアンがエレボスの頭頂部に拳を撃ち込んだ。
その頃、クロウはサイラスとアーノルド伯爵邸の近くにある森から、アーノルド伯爵邸を観察していた。
クロウは太陽の光があまり好きではないため、黒いヴェールのようなものを頭に被っている。
サイラスが望遠鏡を覗き込みながら、クロウに話しかける。
「さすがアーノルド伯爵。庭師の数も多いわね。見た感じ最低でも三人はいるわ」
「……いや、四人だと思う」
「え〜?どこにいる?」
「薔薇の大きな花壇の所と、入り口付近の花壇の所と、噴水の所と、物置小屋の中」
「クロウちゃん物置小屋の中まで見えるの?」
「……窓付いてるから、そこから覗けば見えるでしょ」
「いや、窓めっちゃ小さいよ?ほんとクロウちゃんは視力良いね」
「……」
「終わったらはやく帰ろうね」
「……うん」
サイラスが今は束の間の平穏だな、と思った。




