第二話 夜想曲
今、レオンはとある森の奥深くにある、古びれた建物の地下にいた。
その森は、狼が多く生息しており、人が近づくことはほとんどない。
「任務は完了したか?レオン」
口を開いたのは、ソファにしっかりと構えている、アウレリアンだ。
「ちゃんとやりました」
レオンが冷たく、吐き捨てるように言った。
レオンは『ノクターン』という裏の組織に所属しており、殺しを生業としている。
アウレリアンはノクターンのリーダーだ。
ノクターンは総員6名のとても小さな組織だが、一人ひとりが戦闘に長けていて、瓦解させるのは極めて困難だ。
それに加え、この時代、殺し屋はあまり存在しておらず、ノクターンの存在を知る者はごく僅かだ。
「相変わらず仕事がはやいな」
壁にもたれかかって、腕を組んでいたエレボスが口を挟む。
エレボスは目眩ましや幻覚に長けた、闇魔法を得意としており、レオンと同じように実行を任されることが多い。
「簡単な仕事だったからな」
レオンはアウレリアンが座っているソファの向かいにある、もう一つのソファに目を向けた。
そこには、一人の少女が眠たそうな顔をしながら、横たわっている。
偵察や追跡を得意としている、クロウだ。
幼い見た目をしているが、見た目に反して、クロウはノクターン随一の索敵能力を持つ。
「ソファで寝るな、クロウ。寝るなら自分の部屋へ行け。疲れたから座りたいんだが」
レオンは呆れながら言う。
だが、無口なクロウから返事は返ってこない。
この建物には、一人ひとり部屋がある。
部屋にはそれぞれ机や椅子、棚などの家具が揃っている。
もちろん、寝台も備わっている。
今レオンがいるこの部屋は、会議や情報共有等を行うときに、よく使われるいわば居間だ。
「おい、クロウ。聞いているか?寝るなら部屋で寝てこい。せめて、座ってくれ」
「……」
アウレリアンに報告をしたいが、クロウが移動する気配を見せない。
立ったまま報告するのも良いが、疲れているのでできれば座って報告したい。
レオンが本格的に困り始めていたとき、アウレリアンが口を開いた。
「クロウ。おいで」
クロウが起き上がり、アウレリアンの方へ小さな歩幅で歩いていく。
アウレリアンはクロウを抱き上げ、自身の膝の上に乗せた。
クロウはレオンを睨んだ。
基本的に人の話を聞かないクロウだが、ノクターンのリーダーであるアウレリアンの話だけは、しっかりと受け入れる。
レオンはありがたく、ソファに座った。
それと同時に、エレボスがレオンの隣に座る。
「いやぁ〜、俺も困ってたんだよ」
「部屋に戻れば良いだろ」
「一人で部屋にいても暇だろ」
その時、この生産性のない話を終わらせるように、アウレリアンが口を挟む。
「はやく報告してくれ」
「はい。標的はしっかりと殺しました。目撃者はいないです」
レオンは淡々と報告する。
その時、入り口の方から穏やかな声が響いた。
「ただいま戻りましたぁ〜」
サイラスの声だ。
サイラスはノクターンで、全員の日程調節を行ったり、新しい人員の教育を行ったりする。
レオンも昔はサイラスにしごかれたものだ。
「あれ?ヌルは?」
「いつも通りだぜ」
ヌルの問いに反応したのは、エレボスだった。
ヌルは主に証拠の隠滅などを行っていて、基本的には部屋に引きこもっている。
「たまには部屋から出てきてほしいんだけどね」
サイラスは独り言のように呟いて、自室へ向かっていく。
「俺も寝よ〜」
エレボスが立ち上がり、自室に戻る。
アウレリアンは膝の上に乗せたクロウの頭を撫でながら、静かに話し出す。
「ヌルはクロウと仲良くなれるんじゃないかと思っていたんだがな」
「……アウレリアン様の頼みでも、ちょっとやだ、かも」
クロウが拙い言葉を返す。
アウレリアンはため息をついて、呆れている。
レオンはすでに話を聞くことをやめて、本を読んでいる。
これが、ノクターンでの平穏な時の日常だ。




