第一話 風が流れて
この世には4体の大精霊が存在するとされている。水の大精霊、風の大精霊、火の大精霊、土の大精霊。彼らは神に近しい存在で、それぞれ人間を一人選び、自身の器とする。
器と言っても人間の身体を乗っ取ったりするわけではなく、有事の際に、世界へ顕現するための媒体にするだけだ。また、大精霊は器に自身の魔力を与える。
その魔力が器にどのような影響を及ぼすかは、器自身によるものかもしれない。
これは風の大精霊の器、レオンが殺し屋として奪い続ける話。彼はただの路地裏の孤児であった。
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今夜は静かだ。
冷たい風だけが、屋根の上を滑るように、通り過ぎていく。
レオンはその風の中に立っていた。
呼吸はほとんど聞こえない。
風と一体になっているかのような、存在だ。
標的の部屋は、真下だ。
窓から漏れる灯り。
かすかな足音。
中にいる人間が、まだ生きていることを示す、気配。
レオンは無心で、屋根の縁から一歩踏み出した。
身体は落ちることなく、流れた。
窓枠に足を掛け、音もなく部屋の中へ入る。
風が隙間に入り込むように。
「……誰だ?」
標的が振り返るより早く、喉元に刃が触れた。
一瞬、風が止まる。
血が噴き出す音は、思ったより鈍い。
それだけだ。
男は床へ崩れ落ち、何かを言おうとして口を開いたが、そのまま動かなくなる。
レオンはその様子を見下ろした。
心臓の音を確かめる。
脈が止まったのを確認する。
ーー任務完了。
だが、感想はない。
達成感も、嫌悪も、後悔も。
ただ一つ、いつも通りに思うことがある。
(……風が、止んだ)
レオンは窓から外へ出て、屋根へ登る。
夜の風は冷たい。
その風は、レオンにとっては、心地よいはずだった。
だが、その日はほんの一瞬だけ、違和感があった。
建物のそば、路地の奥に、いくつかの小さな影がある。
子供だ。
泣いているわけでも、騒いでいるわけでもない。
ただ、互いに身を寄せ合って、じっとしている。
親の姿は見えない。
恐らく孤児なのだろう。
胸の奥が、わずかにざわついた。
理由は分からない。
罪悪感ではない。
恐怖でも同情でも哀れみでもない。
ただ、風の流れが変わった。
レオンは子供たちから、目を逸らし、屋根から飛び降りた。
風に乗り、闇に紛れる。
それが、レオンという殺し屋だ。
大精霊の器が辿った道を読んでいただきありがとうございます!本日から新しい章が始まりました。この章はサクサク進めてサッと終わらせる予定です。予定通りにならなるかどうかはわかりません。頑張って書いていくのでこれからもよろしくお願いします!




