第一話 悪魔は主の影となりて
この世には四体の大精霊が存在するとされている。水の大精霊、風の大精霊、火の大精霊、土の大精霊。彼らは神に近しい存在で、それぞれ人間を一人選び、自身の器とする。
器と言っても人間の身体を乗っ取ったりするわけではなく、有事の際に、世界へ顕現するための媒体にするだけだ。また、大精霊は器に自身の魔力を与える。
その魔力が器にどのような影響を及ぼすかは、器自身によるものかもしれない。
これは水の大精霊の器、レヴェリア・エリア・エーヴェルヴァインが悪魔に殺されるまでの話。彼女はただの病弱な実験体であった。
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朝靄が薄く漂うエーヴェルヴァイン邸の別邸は、美しい花に囲まれ、静寂に包まれていた。
屋敷の最上階、その最奥の部屋で、一人の少女が天蓋付きの寝台の上で瞼を開いた。
この屋敷の令嬢ーーレヴェリア・エリア・エーヴェルヴァイン。
その少女は病弱なせいで朝から体が重く、今にも呼吸が途切れそうなほど、胸の奥が重かった。
「お目覚めになられましたか、レヴェリアお嬢様。お加減はいかがですか」
光の差さない室内で黒の燕尾服を身にまとった男はレヴェリアの第一専属執事でありこの世では存在がほとんど知られていない悪魔ーーアルセーヌが深々と頭を下げる。
その声は氷のように滑らかだが、どこか計り知れない感情が滲んでいる。
「なにも問題はないわ。ちゃんと生きてる」
「頭が痛いのですね。今日は読書はほどほどにしてくださいね。あとで薬も飲んでください」
「少し痛むだけよ」
「お嬢様の不調は、些細でも私にとっては重大でございます」
相変わらず暑苦しい忠誠だが、レヴェリアの満更でもなさそうな表情を見て、アルセーヌは誰にも見えないように僅かに微笑む。
レヴェリアはふう、と短く息を吐き、上半身を起こそうとした。
その瞬間温かい手に背中を支えられた。
「大丈夫ですか?無理はなさらず」
柔らかく微笑みながらレヴェリアを支えたのは第二専属執事であり悪魔でもあるーールーカスだ。
ルーカスは常に冷静で淡々としているアルセーヌとは対照的で警戒心こそ高いが穏やかで少しマイペースだ。
「大丈夫よ。そんなことよりルーカスの気配を全く感じ取れなかったわ。いつからここにいたの?」
「今来たばかりです。お嬢様が起き上がる直前ですかね」
「お嬢様が驚かれている。急に現れてお嬢様に触れるなど忌々しい」
アルセーヌがルーカスに淡々と吐き捨てるように言いながら冷ややかな視線で睨む。
二人の間にビリビリ、と黒い火花が散った気がした。
「二人共、朝から喧嘩しないでちょうだい。頭痛が悪化するわ」
「「……申し訳ありません」」
レヴェリアの一言で二体の悪魔はピタリと静かになる。
その瞬間扉が開き、そこから大きな灰色の狼が入ってくる。狼姿の従悪魔ーールクだ。
「レヴェリア、起きたのか。」
その声は低く響いており、まさに獣の声。
ルクは静かにレヴェリアに近づき、そして寝台に巨大な頭をそっと置く。
「撫でろ」
「まったく仕方のない子ね」
レヴェリアは呆れながらもルクの頭をそっと撫でる。
ルクは気持ちよさそうに目を細め、低く喉を鳴らした。
「……羨ましいですね」
「……同感です」
二体の悪魔の言葉をレヴェリアは聞こえなかったふりをした。
そうして一人の病弱な少女と彼女に仕える三体の悪魔の静かな一日は始まった。
その当たり前のはずだった日常が近い内に壊れるとも知らずに。
ーー否、最初からそうなることは分かっていたのかもしれない。
はじめまして!安達りあです。「大精霊の器が辿った道」を読んでくださりありがとうございます。この作品は短編連作集となっていてレヴェリアの後に3人の主人公が待ってます。頑張って書いていくのでこれからもよろしくお願いします。誤字脱字には注意しておりますが、至らぬ点があればご容赦ください。




