先っちょをなめる男
彼は「先っちょをなめる」ことに人生を捧げていた。
針の糸を通す前に、糸の先をなめる。
紅茶をかき回したシナモンスティックの先をなめる。
ソフトクリームのツンととんがった先を、慎重に、丁寧に。
ペロペロキャンディは、真っ赤な誘惑。
バナナは、皮をむく儀式のあとに、静かに先端へと唇を寄せる。
「なぜそんなことを?」と人は問う。
彼は答えない。ただ、なめる。
ある日、彼はドイツの市場で太いソーセージに出会った。
右手で握り、上目づかいで、先っちょをなめる。
周囲の視線が集まる。
彼は気にしない。
「これは儀式だ」と心の中でつぶやく。
そして、ある夜。
彼は夢を見る。
目の前に屹立する巨大な物体。
全長25メートルのICBM。
「これは…いちもつ?」
彼はスパイダーマンになり、側面を這い上がる。
そして、核弾頭の先っちょをなめる。
その瞬間、世界は静止した。
時間も、倫理も、常識も、すべてが凍りついた。
「目覚めよ!」
誰かが叫ぶ。
彼は目を開ける。
そこは病院のベッドだった。
夢だったのか、現実だったのか。
わからない。
ただ、彼の唇には、かすかな金属の味が残っていた。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「先っちょをなめる男」の原詩は「先っちょをなめる」です。




