大きな壁
邪苦刃との戦いに敗れたタネマキは、身体を切り刻まれ気絶してしまった。
チュンチュンチュン――
澄んだ鳥の鳴き声が、重たい意識の底に染み込んできた。
「……ん? 寝てたのか……」
ゆっくりと瞼を開く。視界に入ったのは、雲ひとつない綺麗な青空だった。
その瞬間、耳元で甲高い声が弾ける。
「あっ! タネマキさんが目を覚ましました!!」
突然の大声に、思わず肩を震わせてしまう。
「す、すみません!」
里の娘と思われる少女は慌てて頭を下げた。俺の巨体を前にして、明らかに怯えている様子だ。無理もない。傷だらけの巨人が目を覚ましたのだから。
「いや、大丈夫。それよりさ……俺、どれくらい寝てたかわかるかな?」
「二日です……」
二日。思ったより短い。だが、体の奥に残る重さは、それ以上眠っていたかのようだった。
――忍者が、気絶するなんて。
情けなさが胸に滲む。そんなことを考えていると、里の門の方から、聞き慣れた声が飛んできた。
「おーい! タネマキー! 目ぇ覚めたー? 調子はどう?」
視線を向けると、多くの荷を背負わせた馬を引きながら、イトマキ姉さんが歩いてきていた。
俺の体は布でぐるぐる巻きにされ、至るところに走る傷が、少し動くだけで主張してくる。
「元気元気! 超元気!」
心配させまいと、声だけは無理やり張り上げる。
「……そ、そう。よかった」
姉さんは一瞬だけ、ほっとしたように目を細めた。
「ちゃんと治るまで、まだ寝てなさいよ」
「はい、わかってますよ」
そう答えながら、俺の胸には別の感情が渦巻いていた。
あの時、目の前に立ちはだかった“壁”。
想像していた何倍も高く、何倍も厚かった現実。
――早く、強くならなきゃ。
焦りが、傷の痛みよりも強く胸を締めつけていた。
その夜。
里がすっかり寝静まったのを確認し、俺はそっと身を起こした。
一歩一歩、地面を踏みしめないよう忍び足で里を離れようとした、その時――
プツン。
糸の切れる乾いた音が、静寂を裂いた。
足元を見ると、俺の足首に細い糸が巻き付いている。
その糸は近くの家の柱に結ばれていたが、途中で切れていた。
直後、家の中から人影が現れる。
「……思ったとおりだね」
「ね、姉さん!? ごめんなさい!」
怒られる。そう身構えた俺に返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「いいよ。行きなよ」
「……え?」
「四天忍になるんだろ。頑張ってね」
そう言って、姉さんは大きな赤い布の塊を俺に差し出した。
「姉さん、これ……?」
「餞別だよ。そんな格好じゃ、四天忍になんかなれないだろ」
「ありがとう! イトマキ姉さん!!」
胸の奥が、熱くなる。
「それじゃあ姉さん……また、いつか」
こうして俺は、イッタンモメンの里を後にした。
――邪苦刃。
俺は、あいつにまったく歯が立たなかった。
奴が九忍将であるということが本当なら、今の俺では九忍将には勝てない。高く、そしてあまりにも大きな壁を前に、俺はただ焦っていた。
しばらく歩き、里の灯りが完全に見えなくなった頃、姉さんの餞別を思い出す。それは赤く染まった忍服だった。近づけると、かすかに血の匂いがした。
――きっと、俺の血でダメになった布なんだ。
その服に袖を通す。
サイズはぴったりで、驚くほど動きやすい。
「……流石、イトマキ姉さんだな」
数日ぶりに服を着た俺は、不思議と心まで軽くなった。
そして俺は次なる目的地を、親父に困ったら訪れるといいと言われていた、ヤオビクニの里に決めた。
お久しぶりの投稿でございます。ポケモンとイナイレがすごく面白かった。次回、第三章 ヤオビクニ お楽しみに!




