襲来!自称九忍将
一度諦めかけた師匠との約束を、果たすと決心したタネマキは、姉弟子イトマキとイッタンモメンの里に向かう。
「そろそろだよ、タネマキ」
山道を越えていくと、やがて木々の合間から不思議な光景がのぞいた。
布がひらひらと宙に舞うような家々。建物というより、巨大な反物が折り重なって形成された街並み。そこが、イッタンモメンの里だった。
「お!あれがイッタンモメンの里か!」
巨体を揺らすタネマキの瞳は、少年のように輝いていた。だが同時に、その顔にはわずかな不安も浮かんでいる。
「それはそうと、どうやって里に入るんすか俺? 絶対入れてくれないっすよ」
「大丈夫大丈夫、私あの里とはすっごく仲良いから。私の連れだって言えば、さっきの熊だって入れてもらえるよ」
「ほんとっすかー?」
「ほんとだって」
強気なイトマキの返答に、タネマキは苦笑するしかなかった。どこか頼りなくも心強い。
「よし、タネマキちょっとこの辺で待ってて。里の人にあんたのこと話してくるから」
「りょーかいでーす」
イトマキが馬を走らせ去っていく。タネマキは巨体を地面にどさりと下ろした。
「はぁー、疲れた。里についたらちょっと横になりてぇな……」
その安堵の刹那、鋭い声が森に響く。
「おい! 大きな忍!」
振り返ると、木立の間からひとりの男が現れた。刀を背負い、目は獲物を狙う獣のように光っている。
「あぁ? 誰だお前」
「俺は、九忍将が一人、斬り裂き邪苦刄!」
大地を蹴るや、風のごとく間合いを詰め、刀を突きつけてきた。
「大きな忍よ、俺と戦え!」
タネマキは眉をひそめ、片手であくびを隠した。
「え、ヤダよ。疲れてるし」
「お前に拒否権はない! 俺と戦え!」
「だからヤダって」
「戦え!」
森に、二人のやりとりだけが延々と響き続けた。
――数十分後。
「おーい、タネマキー! 何してんの?」
戻ってきたイトマキが馬上から声をかける。
「いや、九忍将って名乗る変な人にずっと戦い挑まれてて……」
「俺と戦え!」
邪苦刄は相変わらず目を血走らせている。
「何こいつ……とりあえず、無視して里に行こっか。あんたのこと話して来たからさ」
「はーい」
「俺と戦え!」
しつこさは蚊に等しい。タネマキは肩をすくめながら、二人で里へと向かった。
里に着くと、真っ白な布をまとった住人たちが集まってきた。
「おおっ!ほんとにでっかいなぁ」
里の人たちはタネマキを見上げて驚いていた。
「ど、どうも。ご迷惑おかけします……」
「いえいえ、イトマキさんのお連れの方ですので」
柔らかな空気が流れかけた、その時――。
「俺と戦え!」
再び邪苦刄が叫ぶ。
「もう、しつこいなぁ。ついてくんなよ! お前はこの里に入る許可出てねぇぞ!」
「そんな許可いらん! 俺は九忍将だ!」
次の瞬間、邪苦刄の刀が閃いた。
「忍法・鎌鼬!」
風を切り裂く音が轟き、目にも止まらぬ斬撃が走る。里の家屋が、あっけなく真っ二つに裂けた。
「おい! 関係ねえ人ん家壊すなよ!」
「お前が俺と戦わないからだ」
「アイツ、性格悪いね」
イトマキが冷ややかに呟く。
「そうっすね、多分九忍将ってのも嘘っすよ」
「嘘じゃない!! 俺は本当に九忍将だ!」
タネマキは深くため息をついた。逃げても追ってくるだろう。ならば……。
「わかったわかった、戦うよ……でもちょっと待ってくれない? 俺、昨日からなんも食ってなくて腹ペコなんだよ」
「……わかった! お前の腹を満たせば、俺と戦うということだな! では少し待っていろ!」
邪苦刄は風のように姿を消した。
数分後。
ドサドサドサッ
「持って来たぞ、メシだ! 早く食え! そして戦え!」
邪苦刄は大量の肉や魚キノコなどを焼いたものを持ってきた。
「あ、うん……ありがとう」
タネマキはその場にどっさり置かれた食べ物をためらいなく平らげていった。
「ふぅー、食った食った。よし、じゃあやるか!」
ダイダラの忍以外と戦うのは初めてだ…… 見せてもらおうか!自称九忍将の実力とやらを。
今回から、新章イッタンモメン編が始まったよ。新章が始まってさっそくバトル展開だよ。タネマキは邪苦刄くんに勝てるのか乞うご期待!




