再出発
姉弟子のイトマキと偶然再会したタネマキ。両者は今までの経緯を話し合う。
「あんた、もしかして…忍苦岩に触ったの?」
森に静かに響いたイトマキ姉さんの声は、低くも鋭かった。
彼女の瞳は真っ直ぐで、逃げ場を与えてくれない。
「はい、その通りです」
観念して答えると、彼女は深くため息を吐いた。
「なに馬鹿なことしてんのよ!アンタに問いただしたいことは山ほどあるけど……」
そこで言葉を切り、ふいに視線を逸らす。頬がうっすら赤い。
「……そのままじゃ目線に困るから。ちょっと待ってな。服を作ってあげる」
「あ、ありがとうございます」
俺は頭を下げつつも、気になっていることを尋ねた。
「ところで、イトマキ姉さんは、こんな場所で何してたんですか?」
「私? 私はね、呉服の行商をしながら忍の任務もこなしてるの。今日は“ダイダラの里”に寄ろうとして森を抜けようとしたら……あの熊に襲われちゃったのよ」
彼女は肩をすくめ、さっきの戦闘を思い出したように苦笑する。
「そんなことより!」
一転して声を張り上げる。
「タネマキ! なんで忍苦岩に触るなんて馬鹿をしたのか、ちゃんと説明しなさい!」
「いやぁ、それがですね……」
あの日、俺は忍苦岩を折り返し地点とする日課のランニングをしていた。
「ふう……もうすぐで折り返しか」
息を整えながら走っていたその時――
アンアンアアーン!
耳を疑うような、妙に艶めいた声が森の中から聞こえて来た
「!?」
声のする方に目を向けると――
そこには、里一番の豊満女・マシ子と、里一番の筋肉野郎・キレ雄がなにかをしていた。
「な、なんだあれは!? 一体何をしているんだ!?」
走りながらも二人へ視線が釘付けになっていた。
――その瞬間
ドッシーン!!!
「うわっぁ!!」
気づけば俺は忍苦岩に衝突していた。
ムクッ……ムクムクムク……
俺の身体が急激に膨張し、腕も脚も天に届かんばかりに伸びていった。
「……っていう感じなんですよ」
「へ、へぇ~……そうだったんだ……」
イトマキ姉さんは妙に引きつった笑みを浮かべていた。
「そ、それで……里を追い出されちゃったわけね」
「はい。もう身体が元に戻らないから……」
彼女の表情が少し和らぐ。
「大変だったね」
だがすぐに、瞳を鋭く光らせて俺を見据えた。
「あっ!じゃあさ、地雷也師匠との約束はどうなっちゃったのさ?」
師匠…親父との約束とは、親父を超える忍になるために、九忍将。その中でもさらに優れた忍である“四天忍”になるというものだ。
「もうこの身体じゃ……諦めるしかないかなって」
自嘲気味に笑った俺に、イトマキ姉さんは首を横に振った。
「んー……そうかな?」
「へ? どういうことっすか?」
「さっき私を救った“螺旋岩”。あんな巨大な岩……元四天忍の地雷也師匠でも出せるかどうか。つまり、あんたは身体が大きくなったぶん、忍術の規模も大きくなってるんじゃないかってこと」
「……たしかに! さっきの螺旋岩の威力、すごかった!」
胸に希望が芽生えるのを感じた。
「でしょ? なら、巨大な身体だって武器にできる。今のあんたでも、四天忍を目指せるわ!」
その言葉に心が熱くなる。
「よーし! そうと決まれば、親父との約束……果たしてやるぜぇぇぇ!!!」
数十分後。
「よし、服ができたわよ」
イトマキ姉さんが大きな布を差し出した
「ありがとう、イト姉! うぉぉぉ! シャッキーン!……って、ふんどしだけじゃん!!!」
「贅沢言わないの。それだけでも手持ちの布、ほとんど使ったんだから」
「す、すみません……ありがとうございます……」
「それで、タネマキ。これからどうするつもり?」
「とりあえず……ちゃんとした服は欲しいっすね。ふんどし一丁で四天忍になったら、さすがに恥ずいし」
「なら、私と一緒に来なさい。“イッタンモメンの里”に」
彼女は凛々しく胸を張って言った。俺は特に行くあてもないので姉さんの誘いに乗ることにした。
一方その頃、森の外れ、木陰に潜む影があった。
「凄い忍術だったな。興味が湧いたぞ、大きな忍よ…」
暗闇に潜む忍が、妖しい光を宿した瞳でふたりを見つめていた。
今回で第一章完、次は第二章 壁 お楽しみに!




