第一話 忍苦岩に触れし者
「馬鹿野郎!! 触れたんか、あの岩に……忍苦岩に!」
師匠の怒声が、山奥の里に響き渡る。
目の前で土下座するのは俺、タネマキ。巨大化した身体を縮めようにも、もう元には戻らない。
「マジごめんなさい……」
俺は、土下座の姿勢で謝るしかなかった。だって仕方ない。好奇心に駆られて触ったんじゃない。事故だったんだ。
忍苦岩、ここダイダラの里の奥地に封じられた呪いの岩。触れた者は、だいだらぼっちのように巨体となり、一生「忍ぶ」ことができなくなる。まさに“忍を苦しめる岩”である。
「これまでの、ワシの稽古が無駄になったではないか!」
師匠の叱責は、的確で、痛い。震える喉で、俺はどうにか返す。
「マジすみません……親父、じゃなくて地雷也師匠」
つい口が滑って“親父”と呼んでしまった。師匠って呼ばないと、さらに怒鳴られると思い、慌てて言い直した。地雷也は深く溜息をつき、背を丸めた。
「……まあ、なってしまったからには仕方ない。タネマキ、お前はこの里から出ていけ!」
「えっ、なんでだよ!」
思わず顔を上げる。師匠の目は、いつもよりずっと冷えていた。
「この里は忍の里じゃ。忍ぶことができんやつに、ここにおる資格はない!」
正論だ。反論の余地なんて、どこにもない。
俺の身体は、もう屋根の庇を越えるほどでかい。隠密?そんなものは不可能だ。
「……わかった、出て行きますよ」
口にした瞬間、喉の奥がきゅっと縮む。
ここで育って、ここで走って、ここで夢を見た…その里を、今から捨てる。沈黙。風鈴がかすかに鳴る。師匠は背を向けたまま、低く言った。
「タネマキ。どうしても困ったのなら、ヤオビクニの里に行け。そこに行けば、この世の全てを知ると言われている人物がいる」
親父が最後の救いの綱を提示してくれた。
「わかった……じゃあな、親父! 鍛えてくれたのに、約束、果たせなくなっちまって……ごめん」
しん、と空気が固まる地雷也は鼻を鳴らし、わざとらしく笑って肩をすくめた。
「…バ〜〜カ!バ〜〜カ!お前になんか、最初っから期待しとらんかったわ!」
「なんだとぉ!このクソ親父が‼︎ バーカ!バーカ‼︎」
叫びながら、足を里の出口へ向かわせる。
慣れ親しんだ里の風景を名残惜しそうに目でなぞりながら。少し歩いたところで背後から、微かに声が聞こえた。
「タネマキよ、達者でな……」
その一言が背中を押す。俺は振り返らない……強くなる。どんな形になっても。
里の外気は思ったより冷たくて、肌がぞわりと粟立った。そこで、致命的な事実に気づく。
「……あっ! 俺、全裸じゃん!!!」
はじめまして、斗ロロです。ジャンプルーキー!の方でこれの漫画を投稿しているのですが、絵を描く筆が遅すぎるので、漫画のプロットに少し加筆した物を小説として、こちらに載せていきたいと思っています。
よろしくおねがいします。