6話 陰謀?いえいえ策謀です
宣戦布告のパーティの日から1週間が経とうとしていた。
パーティで見定めた、敵の姿。私の人生を破滅させようとした元凶。それを把握できたことは、今後どう動くかをはっきりさせる意味でも大事だった。
おかげで色々と案が固まってきて、何の手を打つべきかが分かって来たのだ。
ただもちろんこちらも動くということは、敵であるガーヒルも動く。そして今、その連中らとの虚々実々、水面下での闘争が――
「なにも起きなかったのよねぇ……」
そう、何も起きなかった。
なんか嫌がらせの1つでもしてくると思ったのに、見事に何もない。暇。
前パパの時は、選挙事務所の前に鶏の死骸が散らばってて大惨事だったり、動物の糞がばらまかれてたり大変だったけど。あ、もちろん鶏はスタッフが美味しくいただきました。え? なんで、ってそりゃ人間の都合で亡くなっちゃったんだから、ちゃんと食べてあげないと可哀そうでしょう? このご時世、色々と問題出て来るし。
もちろんその時の前パパと私はすごい鳥アレルギーだったんで、食べたのは全員事務所のスタッフだけど。
あ、なんか鳥の話をしてたら食べたくなったなぁ。今日の夕食はチキンとかないかなー。
ましてやなんか意気揚々と掲げていたクリーンナップキャンペーンとかいうのも全く動きが見えない。
あーあ。あれをやってくれれば、絶対民衆からの大反対が起きて、それを上手く拾い上げて民衆からの絶対的な支持を取り付けるつもりだったのに。
お偉いさんの組織票も大事だけど、なんだかんだいって一般市民の票田を集めなきゃ選挙には勝てないのにねぇ。どうして偉くなるとそれが分からないのかしら。
というわけで暇だった私は、それでも一応私は事件に巻き込まれた可哀そうな令嬢ということなので学校(そう、この世界にはちゃんと学校があったらしい)にはまだ出ていない。
「ねぇパパ。これなに?」
だから今パパの書斎に入って、適当な本を物色していたんだけど、そこで変なファイルを見つけた。
あ、ちなみに文字はちゃんと読める。ミミズのはいつくばったわけのわからない文字列だけど、体はエリちゃんのものだからか、文字は読めなくても意味として頭に入って来るのだった。便利。
今パパはこの国の最高権力者の1人ということで、色々と重要な資料がこの書斎には入っている。
うーん、でも『これぞ決定版! 上手な上役の取り入り方』とか『ためになる! 同僚や競争相手の蹴落とし方』『これで相手もドキドキ!? 心に刺さる皮肉集』みたいな実践書みたいなのはないみたい。残念。
「ん、ああ、それは……ちょ、それはダメだ!」
ん、顔色を変えるってことは面白いものに違いない。
というわけで今パパがこちらに来る前に、ファイルを開いて中を見てみる。
「んー? ファーザランド卿、3千900。オリエンス卿、2千500……なにこれ」
「い、いや。ただの名簿だよ。そう懇親会のね?」
「ここにイチノ国って書いてあるけど」
イチノ国。この国――ルリアルノ国の隣に位置する国で、まぁその2つは仲が悪い。
つまり敵対国の、しかも卿がついてるってことは貴族の名簿って。何か匂うわね。
「エリ、ちょっとこれを外で朗読したい気分」
「分かった! 分かったから朗読はやめなさい! ちゃんと話すから」
今パパが降参とばかりに力なくうなだれる。
うーん、もうちょっと粘ってほしかったけどなー。ま、いいわ。ちょっと面白そうだし。
私は名簿を今パパに返す。すると今パパはげっそりとした様子で、その名簿について話し始めた。
「これはイチノ国の大臣の名簿だよ」
「大臣の?」
「ああ。こちらに引き抜くことができないか。金額は要は渡した金額だな。もう少しでなびきそうなんだが、なかなかな」
へぇ。そんなことするんだ。
金による買収。金色のお菓子。ま、実際選挙でもそんなことはやってた…………いえ、やった人もいるって聞くし。うん。うちはやってないよ? 清廉潔白。お金ないし。全然無理だって。そういうこと。どこもやることは似たようなものなのかもしれないわね。
「た、頼むからそれは内密にしてくれよ。下手をすれば、それで敵国に内通した証拠として売国奴として裁かれるかもしれんのだからな。さすがにこれを抑えられたらおしまいだよ、私は」
じゃあそんなヤバいもの、普通に書斎に置いとかないでよ。
ふーん。思ったよりしょうもないものだったわ。あのガーヒルを追い落とせるようなものじゃないし。
ま、何かの役に立つかもしれないから覚えておきますか。
「で、こっちは?」
今パパのデスクの横に山積みになっているファイルの山に目を落とす。
「ああ、これはな……その、なんだ。貴族の、その、ご子息の……」
今パパはどうも要領を得ない感じでしどろもどろに答える。
私はファイルをパラパラとめくる。そこにはまぁそれなりにイケメンの顔写真が見えた。
あー、なるほど。つまりこれはあれか。
「私を政略結婚の駒にしようと?」
「そ、そういうわけではないがな? その、なんだ。ガーヒル卿とのこともあったわけだし」
今パパはかいてもない汗を、取り出したハンカチをぬぐうそぶりを見せた。
「つまりガーヒルに捨てられた私を駒にして、味方を増やそうと」
「い、いや。お前も色々ショックだろうからな。少し気分転換にお見合いでもどうかと思って……だな」
はぁ。これだから男親は。
婚約破棄されてすぐに次の恋愛ってすぐに行けるわけないじゃない。まぁあの婚約に愛があったとは思えないけど。
でも、これは使えるかもしれない。
私が結婚するとかはまた別として、この状況を打破する何かとなるもの。
…………うん。いけそう。
これを使えば、少なくとも今の四面楚歌の状況は少し改善されるかもしれない。そのためにはある程度の選定と、私の演技力、企画力が試されるわけだけど。
ま、どうにかなるでしょ。
やらない善よりやる偽善って言うしね。え? 違う? そう。ま、どうでもいいわ。
「お父様、ちょっとお願いがあるんですが」
というわけで、プロジェクト“かぐや姫”。スタート。




