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65話 …結末は女神

「やったね、宿敵撃破! どんどんぱふぱふー!」


 あら女神様。お久しぶりですわ。


「いやー、お疲れちゃんお疲れちゃん。まさかここまで長くなるとはねぇ。ほんとは10話くらいで終わらせたかったんだけど、ダメだねぇ予定通りのことができないなんて。計画性がない人は嫌いです! なーんちゃって」


 ふふ。相変わらずわけが分かりませんわね。


「まーそこはそう、女神的なところで。でさ、でさちょっと聞きたいところがあるんだけど」


 なんでしょう?


「どこからどこまでが琴音ちゃんのたくらみだったの?」


 ……。


「どうやったら一切の手を汚さず、あそこまで政敵を貶められたの?」


 …………。


「答えない、ということは図星ってことかな? 全部、琴音ちゃんが仕組んだことだってことで」


 あら、いやですわ。あまりに意味の分からないことをいわれたので、呆気に取られていただけです。

 私が何か悪だくみをしたみたいに言わないでください。

 私は何もしてませんから。悪漢に襲われた被害者ですから。


「いやいや、ただの被害者はあそこまで綺麗に追い詰めてそれはないなー。結果は当然、家財を没収し爵位もはく奪。てか国家反逆罪で死罪になればそんな物欲もなにもないわけだけど」


 気の毒でしたわよね。まさか親族までそうなるなんて。


「それを仕掛けた人が何か言っておるぞ……」


 何か証拠がありまして?


「ふぅ。あのね琴音ちゃん。わたしは別に取って食おうってわけじゃないわけ。この場、この状況。何が起きたのかは視聴者にはしっかり説明しておきたいの。そうしないとみんな納得しないでしょう」


 …………。


「この世界線では琴音ちゃんの勝ち。大勝利。それでいいの。けどね、何をして、何が起きたかはしっかり確認しておきたかなってね」


 私は何も勝ったと思ってはいませんが。


「琴音ちゃんならそう言うと思ったけど。で、話してくれる?」


 ……はぁ、分かりましたわ。気が進みませんけど、これも女神様にこき使われる身の悲しさとすれば。


「ちょっと、わたしそんなブラック企業じゃないつもりだけど」


 ふふ。意地悪な女神様に少しチクリとしてみたかったのですわ。


「琴音ちゃんのチクリはブスリって感じか、ドカリって感じなんだけどね」


 無駄話はここら辺にして。そうですわね。私がしたことはそんなに大それたことではありませんわ。

 本当ならこういうネタ晴らしというのは好きではないんですが、仕方ありません。


 やったことはまずイチノ国の大臣様たちにラブレターを送っただけですわ。


「わぉ、琴音ちゃんてば、おじ様たち相手にダ・イ・タ・ン! ……ってだけじゃないわよね?」


 当然ですわ。

 送ったのはまず手探り。イチノ国の内情、政治状況、軍事状況。それら全てを金で買いました。その前からお父様が色々と探っていたので、ある程度の理解はたやすいものでした。


 そしてそれはビンゴでした。

 軍部と議会の対立。それがイチノ国の現状。


「なるほどなー。あ、もしかしてそこから? あのガーヒルくんの内通を知ったのは」


 ええ。

 それでその後は選挙だなんだとしていたのですが、ぶっちゃけて言うと、そこらへんのはどうでもよかったのです。


「ぶっちゃけたね! なんか最終決戦って感じだったのに!」


 ええ、まぁどうでもよかったのは勝敗で。それによってイチノ国がこちらに侵攻するきっかけになるとしたわけです。


「…………え、まさかあのイチノ国の侵攻って?」


 いやですわ女神様。私は何もしていません。

 愚かにもガーヒルという男が、イチノ国のなんとか将軍に密告しなければあんなことが起こらなかったわけですわ。


「こっちは忙しいから今が他国への攻め時ってやつだよねぇ。でも、実はこれって……」


 ええ。こっちは忙しいから“今がこちらの国に攻めるチャンスだよ”と教えているわけですわ。怖い狼さんに、今なら僕たちを食べ放題だブーと、藁の家の扉を開いてしまった。

 本当に愚かしい。少し考えればわかるのに、それをしないで自分の都合の良い方向に考える。確証バイアスの塊でしたわね。


 ――だからこそ、私としては手を打ちやすかったのですが。


「え? なにを?」


 ガーヒルのイチノ国の手紙を書き替えて届けさせました。今はこちらに攻めるチャンスですよって。


「……え、なんで? それって危ないじゃない? ひょっとしたら滅びちゃうかもってことでしょ?」


 そうですわね、危ないですわね。


「てかそんなことよくできたわね」


 はい。アーニィが一晩でやってくれました。


「そんなハイ難度のことを一晩でぇ!?」


 まぁそれは冗談ですが。

 それによって起こったことはもう女神様はご存じですわね。


「そりゃもう。イチノ国が攻め込んできて、てんやわんやの王宮で琴音ちゃんがそりゃもう大立ち回り。馬鹿な貴族たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍!」


 うふふ。過大評価光栄ですわ。


「で? そこで琴音ちゃんが出陣したわけだけど。そういえばあれはなんで? あのザーラドとかいう将軍。圧倒的有利だったのに、なんであんなあっさり逃げちゃったわけ?」


 ああ、それは簡単です。

 ただ単に、本国で異変が起きたから私たちに構っている暇はないということですわ。


「ふーん。出陣中に本国に何か起こればそりゃ退却するしかないかー。…………え? なんでそれを琴音ちゃんが知ってるの?」


 うふふふふ。


「怖っ! その笑い怖いって! ……あ、でもその笑いをするってことは、つまり何かしら琴音ちゃんがかかわっているということじゃないかしら。例えば…………そうね、琴音ちゃんが仕組んだんじゃないかしら、イチノ国での何かってのを」


 うふふ。さすが女神様ですわ。


「おお、ということは」


 全然違います。


「えぇ!?」


 私は何も仕組んでませんわ。ただお手紙を届けただけですもの。


「そ、そうよね。まさかの琴音ちゃんがそんな大それたこと」


 ただイチノ国のおじ様にお伝えしただけです。軍部はこちらでひきつけますので、クーデターをするなら今の内ですよって。


「完全に琴音ちゃんの仕業だったぁーーーー!! この子です! この子が犯人です!」


 あら、女神様。私は何もしてませんわ。ただ単に事実を教えてあげただけ。ただそれだけのことなのに、なぜ私が逮捕されなければならないのか。客観的に論理的な見解をお願いしますわ。


「…………はい、すみません。私の思い違いでした。え、てかこの子、やっぱりヤバくない? 2か国の上層部を手玉に取るとか……」


 女神様、聞こえてますわよ?


「ひゃぅぅ!! なんでもない! なんでもないですったら! え、てかそれ? それが琴音ちゃんにあんな大胆なことやらせたの? ちょっとでも時間が遅かったら琴音ちゃんたち死んでたんじゃない?」


 女神様。何かを得るためには何かを捨てなければならないのです。

 捨てるもの。たとえば安全とか。


「だからってそんな博打みたいなことをするもん? 国とか色んな命を捨てることになったかもしれないんだよ?」


 それはもう。

 けど、仮に私が負けるのと、ガーヒルが天下を取った時の被害を比較して考えた結果、こちらの方が人的被害が少ないと思っただけです。


「相変わらずドライだなぁ」


 嘘ですわ。本当はすごく怖かった。何も起こらずにあのまま潰されて殺されるかもしれないと思った。

 けどそうしないと、今パパも上町(かみまち)の皆さんも、クロイツェルもダウンゼンも救えないと思ったから。


「琴音ちゃんって優しいんだね。ふふ、お姉さん、ちゃんと知ってたよ?」


 それに、あの子も。


「ソフィーちゃんだね。ああ、そうそう。一番聞きたかったのがこれだけど、


 なんでしょうか。


「なんでガーヒルくん許しちゃったの? てっきりひどい復讐に走ると思ったのに」


 あら私がそんな酷いことをすると思ってました?


「いや、相手を徹底的に追い詰めろって前パパに言われたんじゃなったっけ?」


 ええ、その通りですわ。そしてそれをしっかりしました。


「どこがなのさ。命も取ってないし、財産も保証しちゃってるし。あれ、復活したら第一に琴音ちゃんの首取りに来るわよ」


 そうですね、怖いですね。


「なに、その。私はいついかなる時でも挑戦を受けるみたいな精神」


 あら、そんなつもりはありませんわ。

 というより、私はガーヒルのことを許した覚えはありませんもの。


「え? どういうこと? あるいは、こんな逆賊1人(ぎょ)せないなんてわけないってこと?」


 いえいえ、違いますわ女神様。

 私はガーヒルを徹底的に叩き潰しましたわ。


「どういうこと?」


 彼は徹底的に負けました。

 圧倒的な勝利の余韻に浸っている絶頂の瞬間。その足元が崩れ去り、これでもかというほど完敗した。しかも舐め切っていた相手に。

 それで彼は圧倒的な敗北感に打ちのめされ、しかも私財と爵位を没収されて追放となった――いえ、なりかけました。もはや彼に前途はなく、明日の食べ物すら困る始末。彼が忌み嫌っていた平民と同等に扱われるだけならまだしも、彼自身、何も生み出すことのできない無能くんですから、きっと落ちるところまで落ちるでしょう。

 そんな未来を描いたに違いありませんわ。彼、それなりに聡明ですから。


「あー、なんとなくわかってきたかも」


 ええそうです。そんな絶望に絶望を重ねた彼に対し、私が手を差し伸べた。

 過去のいきさつをすべて無視して、救いの手を差し伸べたのです。

 この時に彼は私を救いの女神と思ったでしょう。女神様を前にそれは恐れ多いことですが。


「絶望の極致にいた彼は、意地もプライドも投げ捨てて琴音ちゃんに従った。極大の恩を売って、ガーヒルを取り込んだ」


 そういうことですわ。


「けど、それってどうなの? あの男のことだから、それで彼の未来が回復できるなら、一時の屈辱なんてへでもないって感じるんじゃない? それで傷を癒した後は琴音ちゃんに反撃してくるかも。あるいはやぶれかぶれで暗殺なんてことも」


 それは問題ありませんわ。

 財産を保証したといっても彼が今後、数年生きていられる程度。領地は没収し、他の貴族に分配されるものの、そのほとんどは王室の直轄領としました。


 それに今考えているのは議員改革です。

 これまで貴族による政治が成り立っていますが、そこに民衆の参政を許す仕組みを作ります。古代ローマの共和政みたいな感じですわね。

 今回の件で、貴族たちの無能さが浮き彫りになりましたからね。国王陛下は結構前のめりでその施策を進めようとしますわ。


 それが成立すれば、国民から圧倒的人気のないガーヒルは二度と政治の場に不浄はできない。そういうことです。


「…………」


 それにね。多分、この後この世界で、私に歯向かおうなんて愚かなことしそうな人。いないと思うし。

 前パパは言ってました。


『偉人は言った。進化の反意語は退化ではなく停滞。人の足を止めるのは絶望ではなく停滞。たまには足踏みしてもいい、けど止まり続けるのは絶対ダメだ。ほんの1センチでも、1ミリでも前へ。そうしないと、私を応援してくれる人に申し訳ないからね』


 ですからここで私がガーヒルを始末して、何物にも脅かせない権勢を築いてしまったら。きっと私の未来は止まってしまう。

 だからそのために、彼には生きていてもらわないと。 

 彼に追いつき追い越されること。そんな屈辱は認められないし、そんなことに甘んじるつもりはない。

 だから頑張らなきゃってなるの。停滞ではなく、進化のその先へ。ガーヒルはそのために生きるのよ。


「……………………」


 あら、どうしました女神様。急に黙ってしまって。


「いや、なんていうか」


 ええ、なんでしょう?


「恐ろしい子ね。エリーゼ・バン・カシュトルゼ“筆頭大臣”殿」


 うふふ、最高の誉め言葉ですわ。

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